JCBと松嶋奈々子〜ノせられて〜

あっという間に入国もすませ、ここで初のビザを取得。そもそもビザの意味すら知らなかったが、ここカンボジアの場合お金を払えばもらえるようだ。ビザ=お金を払うともらえるシール、という解釈でこの際いいだろう。

バスを乗り換え首都プノンペンへと向かう。昼休憩でもコーラ一本にとどめておいたおかげで、腹痛は免れたのだが、たった今みたあの恐ろしい光景は一体・・・。

路上に人だかり。交通事故。泣き喚く女性。血だらけのアスファルト。

そのすぐそばに、頭部がぐちゃぐちゃになった若い女性。大型バスとバイクの衝突事故で、若い女性がバイクで二人乗りをしていて、一人が見るも無残な姿になってしまったようだ。

こういう事故現場に出くわすのもこれで二度目。東南アジア諸国では、バイクでもヘルメットを着用していない人が少なくない。その結果こんなことに・・・。それにしてもこの短期間で二度もこういう現場に出くわすなんて、ただごとではない。次は僕・・・海外では何が起こっても自己責任、細心の注意を忘れないようにしようと改めて気を引き締める。 もっとも、バスに乗っている際の交通事故については、運転手に命を預けるしかないのだが。

無事、プノンペンに到着しほっと胸をなでおろし宿にチェックインをし、外出。セントラルマーケットへ足を運んでみるも、正月休みらしく、ほとんど人気がない。中華料理屋で1ドルのラーメンを食べ、一旦宿へ帰り今度は宿の近くの市場へ。パインシェイクを2200リエルでいただく。あーもう分からないこれっていくら・・・。飲みながら帰る。

そこでバイクに乗った男に声をかけられた。「ツーチャンレストランはどこですか?」これがある種ボクの人生を変えることになる男との出会いになるとは、誰が予想できよう。

知らないが確か地図でみた記憶があったので、それをみせてやり教える。話の流れで日本人であることを告げると「あ、すいませんつい地元の方かと思って道きいちゃいました。」だって。ありがとうね、もれなく間違えてくださって。

ジョンという名のフィリピン人のその男は、30歳でフィリピン航空勤務のキャビンアテンダントらしく、休暇でカンボジアに来たそうだ。「せっかくなので、ビールでも一杯ご一緒しませんか?僕がおごりますよ。」おごりという言葉はタダ、お手頃価格よりもさらに好きなので、もれなくご一緒することに。

近くの中華料理屋へ。ところでさっきのツーチャンレストランには行かないでいいのだろうか。「ああ、結局約束なしになっちゃったから、大丈夫!さあ、何でも頼んで!」さきほど飯は食ったばかりなので特に何もいらなかったのだが、せっかくのおごりなので空芯菜とコーラを頼み、共にいただく。

聞くとマニラ〜東京間のフライトもしょっちゅうだそうで、携帯におさめた「新宿駅を歩くジョン」の動画をみせられたり、

「松嶋奈々子って知ってる?日本で有名な女優なんでしょ?その人以前フィリピン航空の飛行機に乗ったことがあってね、もちろんファーストクラスで。そこで機内ショッピングをしようとしてたんだけど、彼女はJCBのカードしか持ってなくて、でもうちの会社はあいにくVISAとマスターカードしか対応してなくて、謝ったんだけど物凄く怒っちゃってね、大変だったよ!」などとキャビンアテンダントならではのエピソードを教えてくれたり、

さらには「僕は航空会社に勤務しているから、時々タダでエアチケットが手に入れられるんだ。7月4日までなら二枚おさえられるから、よければジャミラに差し上げるよ。僕はどうせもう休みとれないだろうし。」ななんですって!!?そそんな、悪いよ〜。いただきます。でも何でさっき出会ったばかりの僕に?まあいっか、もらえるもんはもらっとこう。

そんな具合に会話を弾ませていると、「あ、リチャードから電話だ。僕の父の仕事関係の知り合いなんだけど、シンガポール人で、すごくお金持ちなんだ。丁度彼も今仕事でプノンペンにいるから、よかったらまた明後日にでも一緒にご飯を食べよう。」

そう言いリチャードと電話をし、僕という人物に出会った旨をリチャードに告げ、「しゃべる?」あ、うん、もしもし。「ハーーーイ!ワタシの名前はリチャードでーす!とってもリッチなリチャードでーす!明後日食事楽しみにしてるよ!心配ない!リッチなリチャードが全部おごってあげるから!」ははは、あはいどうぞよろしくー、ガチャ。そんなわけでまた明後日会う約束をし、宿へ帰る。

この日の日記には「でもなんで俺なんかに?でもでも嬉しい!ほんの少し用心しとこう」と書かれていた。明らかに舞い上がっている。ほんの少しどころではなくもんのすごく用心しろと今なら言いたい。

カンボジア、飯・・・

4月16日。今日は母親の誕生日だ。メールを送る。それにしても、ちょうどカンボジア正月のタイミングで入国してしまったため、どこもかしこも店が閉まっていて、暇だ。シェイクを飲みに屋台にでかけても、閉まっているから何故か肉まんを買う。肉まんは正月でもやってるのか。そうか。

洗濯などをすませ、モニボン通りというところを徘徊する。歩く歩く歩く。暑い暑い暑い。汗汗汗。こらえきれなくなりカフェへ入る。観光客向けのおしゃれなカフェだったため、少々高いが、リラックス。「オークン(ありがとう)」と店のおばちゃんに言うと気をよくして、しゃべりだす。カンボジア語講座始まる。また色々と単語を教えてもらい、バナナを一本もらい、「川沿いいってごらんなさい。いいわよ。」と言われるまま川のほうへ歩いてみる。

独立記念塔が道のど真ん中にたっている。晴れ渡る空に映えて、かっこいい。さらに歩くと、遊園地を発見。なんというか、こう、すごく、ボロい。ゴミがそこかしこに。さらにさらに歩くとようやく川へとたどりつき、木陰で休憩。近寄ってきた子供の写真をとったりして、また歩き出す。

すると王宮が。なにやら入場料の類が要りそうだったのでスルーして、デパートへ。このデパートだけ、物凄く近代化。東南アジアの近代化した建物=過剰な冷房、それをきちんと体現しているあたりがまさに近代的で、しばらく涼んで、やがて寒くなり宿に帰る。ごろんする。

久々まともな、正常なウーンコー(大きいほう)がでたので気分はまさに絶好調、夜、屋台へ。牛肉団子ヌードルと、アイスティを注文。いただく。うーむ、しばし考える。・・・もしかして、カンボジア、飯、そんなにうまくない?確かにまだカンボジアにきて二日目だけれど、それにしてもまだ一度も「これはうまい!」というものに出会ってないというのはつまり、うまくない、ということなのか?そんなことはないはずと後で買ったパインシェイクも、ココナッツの味がなぜか濃厚で、腹がたった。残念だ。

シャワーをあび洗濯をすませ、電子辞書に搭載された日本語の問題集などをして時間をつぶし、就寝。明日はジョンとリチャードと待ち合わせだ。待ち合わせってなんかキンチョーするよね。

セレブなジョンとリッチなリチャード

郵便局へ手紙を出しに行ったりしつつ時間をつぶし、12時、待ち合わせ場所へ。間もなくジョン現る。バイクの後ろに乗せてもらい、リチャードの待つ中華料理屋へ。

中へ入ると、「ワタシがリチャードだ!ジャミラ、よろしく!さあ、食べよう!」そう言うと次から次に料理を頼みはじめた。「遠慮しなくていいからね!」ゴーヤとチキンの炒め物、エビチリ、レタスと色々の炒め物、牛肉スープ、酢豚・・・遠慮せずにいただく。

カンボジア、うまいじゃん!どれもこれもうまいじゃんか!でもこれって、中華料理・・・とにかくうまい。食べながら色々話す。

「ムサシって知ってるか?格闘家の。」はい知ってますよ。あまり詳しくはないけど。「この写真みてくれよ。ムサシとこの間釣りをしたんだ。」えっ!?あ、うわ、ほんとやムサシや!おっちゃんなんか知らんがスゴいな!

それから「また明日会おう、今度は日本食をご馳走するよ!その後マッサージに行こう、気持ちいいぞ〜!そういえばジャミラは今どこに泊まってるんだ?」ゲストハウスですけど「それならジョンの部屋に来ればいいじゃないか。どうせベッド余ってるんだろ?ジョン。」

「余ってるよ。そうだよジャミラ僕の部屋に来ればいいよ!宿代もったいないでしょ。長旅してるんだから少しでも節約しなきゃ。それに僕一人にあの部屋は大きすぎるからさ。」いやでもそれはちょっとさすがに悪いので・・・と言いつつも「ラッキー」が頭の中でこだまする。

さらに「IATAって知ってるか?航空会社や旅行代理店とかの関係者だけが入れる業界団体なんだが、その会員だとエアチケットが驚くほど安く買えるんだ。ここからロンドンまでなら60ドルぐらいでいけるだろう。ジャミラもクレジットカードさえあれば登録できるぞ、俺が招待してやろう。」まま、まじかよ!やったぜ!

そんな嬉しい話をした後リチャードは仕事があるからと先に帰った。するとジョンが「ジャミラはクレジットカード持ってるの?」と尋ねてきた。え、あうん持ってるけど。「リチャードに次きかれても持ってないって言ったほうがいいよ!リチャードは、ジャミラは日本人だしお金持ってるって思ってるからさ。でも僕は分かるよ、長旅するんだもん、節約したいんでしょ。だからカードは持ってないって言うんだよ!そしたら入会金とか払わなくてもリチャードがなんとかしてくれるだろうからさ!あっこのことはリチャードには絶対に内緒だよ!」なんだかよく分からないが、うん分かった。と返事。

それからジョンのホテルを教えてもらい明日またここで会おうと待ち合わせをし、解散。ネットをしに行ったり部屋で電子辞書と遊んだり、ぐだぐだと過ごす。夜はまた屋台へ行き、焼きそばとパインシェイク。うまい!ようやくレストランじゃなく屋台でもヒットだカンボジア!なんだ、うまいじゃんか!ぺろりとたいらげ、少しぼーっと人間観察などして、宿へ帰り寝る。

この日の日記には「ありがたすぎるけど、ちょっと心配。ていうか悪いわ。俺なんもできんから・・・」と。ちょっと心配しているもののやはりラッキーとにやついているのが見て取れる。ああ情けない何故ここで気づかない彼らの怪しさに。惨劇は水面下で進行中。

Xデーだなんて知る由もない

朝からお金をおろそうとATMを探し歩く。なかなかみつからず四苦八苦していたら結局近所のレストランの中にあり、100ドルおろす。そう、ここカンボジアは現地通貨リエルと同等に米ドルが流通しているのだ。そして荷造りをすませチェックアウト。向かうはジョンのホテル。絶対に自腹じゃ泊まれない「ホテル」。ゲストハウスではない。

ビッグラック(強運)ホテルという、まさに俺じゃんな名前のホテルへ着くと、ジョンが迎えにきた。「ホテル変えたんだ。ここより綺麗でいいとこみつけたから。」言われるままについてゆく。

アジアンパレスホテル。ビッグラックでもアジアンパレスでもどっちでもよいが、重ねて言おう。ゲストハウスではない。ここはそう、ホテル。既にチェックインしてあった部屋へ招かれ、荷物をおろす。「よし!マッサージ行こう!マッサージっていうより、スパって感じだけど気持ちいいよ!」と急かすように言われる。

え、あ、う、うん。「あでも、マッサージ受けるとき全裸にならなきゃいけないから、貴重品とか全部部屋の金庫に置いてったほうが安全だよ!財布ももってかなくていいよ!僕がおごるから!」そうか。そうだね。じゃあ。部屋のクローゼットの中にある金庫へマネーベルトを入れる。

そうだねじゃないよ・・・。

到着したそこはまさにスパという雰囲気のスパで、早速個室へと誘われる。とそこでジョン「じゃあ、僕はネットしてくるから、一時間半後にまた迎えにくるよ!お金払わなくていいからね!ごゆっくり。」

えっ?ジョンはマッサージしないのか?そうか、いってらっしゃい。聞かされていたとおり、全裸になり、ベッドに横たわる。担当の娘登場。タオルをケツにかぶせていたのだが、ぺろーん。マッサージが始まるなりすぐにはぐられた。

はは、恥ずかしいけど気持ちいい・・・んぬっうあっ!娘!今絶対おれのおきゃん、きゃんたまさわっただろ!んほっあでも気持ちいい・・・と思ったら痛い!結構力持ちな娘に全身もみほぐされ、今度は顔パック。これって必要なのでしょうか私に・・・。

なすがまま。パックを乾燥させている間またもやもみほぐされ、気持ちいいんだか痛いんだかなどと思っているとジョンが戻ってきた。「リチャードが待ってるから行こう!」なんだかやけに急かすなおい。まあでも待ってるんならしょうがないか。

ホテルへ戻るとリチャードが待っていて、三人で日本料理屋へ。刺身とざるうどんをいただく。ちょいと久々の和食に喜ぶ。うまい。すると再びリチャードが、「昨日のIATAの話だが、ジャミラはクレジットカード持ってるのか?」ときいてきた。ジョンに言われたとおり、持ってないです。と答えると「それじゃあお母さんにでも日本から送ってもらいなさい。そしたら会員登録してあげるから。」あれ、結局カードいるんじゃないか、とは言わずイェスと答える。昼食を終えるとリチャードはまたもや仕事に戻っていった。

僕はというと「トゥールスレン行ったことある?」ない。「じゃあ今から行こう!」とジョンに誘われバイクで走り出す。そもそもトゥールスレンて何だよ。

へえーここがトゥールスレンかあ。バカラやブラックジャックなんかのゲームをして勝てばお金がもらえるところかあ。

・・・・ここカジノじゃん。

なぜかカジノにつれてこられ、バカラを始めるジョンを傍観する。ジョン、勝つ。ものすごく、勝つ。換金したら5000ドル近くにもなっているではないか!金は、金がある人のもとには次から次へと流れ込むようになってるんだなあ。

なんてみていると「ジャミラもやってみたら?」とコインを数枚渡される。スロットに挑戦してみるも、見事に負けて手持ちはゼロに。「そろそろ行こっか。」

今度こそトゥールスレンに行くのかとバイクの後ろにまたがっていると、ビッグラックホテルに到着。前泊まってたホテルじゃないか。中へ入る。ほほう、バカラやスロットなどのゲームがあるぞ。これがトゥールスレンかあ。

・・・・またカジノ。またバカラをやるジョン。バカラバカ。

ここでも「ジャミラもやってごらんよ」と10ドル手渡され、今度は僕もバカラにチャレンジ。2ドルづつかけて少しづつやっていると、20ドルに増えた。調子に乗ってやっていると、14ドルに減った。「やるじゃんジャミラ、よし、全額かけよう!」と最後に全額かけたら、なんだか良く分からないが18ドルもうけた。でももともとジョンのお金なので、それを渡そうとしたら「それはジャミラのだよ。」と受け取らないので、仕方なく、しーかーたーなーく、財布にしまった。

結局トゥールスレンには行かず、トゥールスレンが何だったのかも分からないまま宿、いいえ、ホテルに戻り、それからしばらくベランダで三線をひいたり、高層階からの眺めに酔いしれようと思ったものの大して景色がよくないことに気づいてしまったり、TVをみたりして過ごす。

夕方、「出かけよう」と言われまたもや外出。

デパートへ行く。何をするでもなくぐるぐると見て回り、デパートを出る。ついてゆく。すると、またもやスパへ。えぇ・・・もうそんな疲れとかないんですけど・・・

「ゆっくりしててよ。僕歯医者いかなきゃなんないから。」とまたもや一人残されマッサージを受けることに。フット&ボディマッサージ、それからスチーム機器に足をつっこまされる。そこでスタッフにチップを要求される。普段なら当然払うことはないが、今日はカジノで買ったお金があったので5ドル手渡した。何セレブみたいなことやってんのさ。

終わってからしばらく待っているとジョンが戻ってきて、何か食べようとホテルに併設されたラッキーバーガーというハンバーガー屋へ行く。そこでリチャードとばったり会う。バーガー屋で男三人アイスをほおばる。食べ終えると近くの施設へ。

本日三度目のバカラ。バカラバカもええとこやわこいつ・・・とは言わずここでもまたチャレンジ。そして負ける。とことんギャンブルのセンスがないことを思い知らされる。リチャードもジョンも負けたので、いさぎよくホテルへ帰り、ジョンと二人トランプをして遊んだり、優雅にバブルバスに入ったりして寝る。

この日の日記には「こんなリッチな日、いいんだろうか・・・ちょとこわい」と書いてある。ちょっとどころじゃないんだよ。お前。さあ思い知れ。

謎のスピリットフェスティバル発言は危険信号だったのに!

ホテルのレストランでモーニングをいただく。ビーフンに目玉焼きに牛乳にジュースにパン。贅沢。そこで日本人の方と会う。60歳前後のその男性は、ジャイカの仕事でカンボジアに来ているそうだ。えらいなあ。こちらは好き勝手に旅しているだけだと話すと「気をつけて楽しんでくださいね」と。ありがたいお言葉。

部屋に戻りウーンコーをして、こんなホテルに泊まることはもうないだろうからと写真をとろうとすると、

「ま待って撮らないで!」突然ジョンが慌てだした。えっ?

「あっ、えっとそのー、今、フィリピンではスピリットフェスティバル、精霊祭の真っ最中で、その間は写真は撮っちゃいけないんだ。精霊がうつりこんじゃうから。ごめんね。」あっへえーそうだったの、それはそれは、失敬失敬。写真をとるのをやめ荷物をまとめる。

いつまでもプノンペンにいるわけに行かない。バス停へむかい、ジョンに別れを告げる。シェムリアップという町へ。本当に何から何までありがとう!感謝してもしきれません!メールするから!「どういたしまして!楽しかったよ!気をつけてね!」

あーあ別れちゃった。もう見つけられないよジョンを。

バスで隣合わせたカンボジアの女の子パオとおしゃべりをし、jamipodをきいて流れ行く田舎な風景を眺め、やはりリッチな生活よりもこういうローカルなほうが俺は好きやな、と改めて思う。二回程休憩をして無事シェムリアップに到着。事故に遭わなくてよかった・・・。パオにグッドラックと言ってもらい嬉しくなる。

宿にチェックインをして、少し休憩したのちネットカフェへ。メールをチェックする。

血の気ってこんなにもひくんだね

母親からメールが。以下しばらくのやりとりを忠実に再現。というかコピペ。

「あんた郵貯のカードで何か変わった事ないかね?明日確認するけど。カード会社から電話があったらしい」

「 至急連絡してや。31万円クレジットで18日に買い物をされとるよ。ブロックするなら連絡してとカード会社が言ってきとるよ」

「今郵貯のカードにブロックかけてもらった。もしなくしたなら紛失届けださんといかんし。とにかく早く知らせて。今からはお金おろせんよカードをなくしてないなら解除できるから。教えて」

「無事にすごしとるのか心配です。」

立て続けに4件入ったメールをみて、首をかしげる。何をそんなに。

「いや全然無事なんやけど。 まじで・・・!!! カードは常にもっとるし!今も手元にあるし! 昨日やろ?18日て。いっぺん100ドルおろしただけで それ以外はずっと腹にひっつけてもっとったんやけど!! それ取り消せんのやろか? わけわからんな。」

「わからんけどカード体から離したんはそのフィリピン航空の友達のホテルの金庫においたときだけやから、あいつにやられたんかも。一応現金少しはあるけんまだとめといてや。それ以外考えれんもん離してないけん。がーん。でももうこのカード使わん方がええかも。 どないしょ〜こまったこまった。まあ心配せんでも身は大丈夫やから〜」

少し血の気がひいた。ああ。何を素直に舞い上がっていたんだオレは。まんまとやられちゃってるじゃないか!

ジョンめ。リチャードめ。小汚い奴らめ。というかお金還ってきますように・・・。宿に帰り同じドミに泊まっていたイスラエル人のトーマスにこのことを打ち明けると、「大した額じゃないよ。大丈夫、保険きくだろうしさ。」と慰めてくれる。するとなんだか急に気が楽になり、また働けばいいさと開き直る。

もう一度ネットに行きメールをチェック。

「カード会社に今すぐ国際電話かけて事情を話してやて7時半までに」

すぐさま国際電話をかける。が。

「電話したんやけど、おかんのカードやから本人じゃないと何の手続きもできんみたい。 フィリピン人のやつと仲良くなって、そいつが俺のホテルベッドあいとるからおいでっつうんでいって、でスパつれてったるから荷物全部金庫いれておいていきゆうたん。 でおいてって、スパいって、その間そいつはインターネットするっつって外おったんよ。 ←これが18日。 その間にカードやられたんやと思う。 っていうのをおかんから説明してくれん?悪いけど」

「やはりおかんのカードをあんたが使っているのは違反やから補償はできんといわれた。カードも止めたけど明日郵貯のお金止めんといかん。これからのお金どうやって送る?方法があるなら教えて。高い勉強代やと思いがんばらんと。気を付けて。人は信用出来ん人もおるし、特にやさし過ぎる人はね」

「げげえ。そっかあ。他にもカードもっとんやけど、 それももしかしたらやられとるかもしれんけんなあ。
うーむ。どうしよか。 今手持ち100ドルちょいやから、しばらくは生活できるけど、 その後どうしよ。ちょっと考えます。まあ30万でよかったわいほんと。 その分また働きます。」

「心配せんでいいよ。お金返さんでいいよ。それよりこれからどうやってお金おろすか。自分のカードで明日全部おろしてから止めてもらうかね、これから送金する方法考えるか。だれか専門の人に聞くか?おかんも聞いてみるよ」

このあと、他にもっていた二枚のカード会社へ連絡。

どっと血の気がひいた。 このときの血の気のひいていくさまを映像化できるなら是非したい。というかこの時の僕の表情をビデオに撮影しておいてほしかった。面白いほどに青ざめていったことでしょう。奈落の底に突き落とされる、という言葉をなんとなく映像化したものをイメージしていただくと割りとわかりやすいかもしれません。もしくは余計分かりづらいかもしれません。

「18日に40万円ほどご利用の履歴がございます。」

30まんえんたす40まんえんは、えーと、70まんえん!よくできましたー!な、ななじゅうまんえん・・・もう一枚のカード会社は営業時間を終了しており明日またかけ直してくれと。ははは・・・もしかしたらもう一枚のカードも30万近く・・・合計百万・・・ははは・・・キリがいいってのはこのことだねははは・・・

母親に追加報告。

「ごめん。他のやつも40やられとった。けど多分こっちは補償きくと思う。 でももしかしたらいっぺん帰国して手続きやらなんやらせないかんなるかも。。 もうカード全部とめたけんおろせんわ。ちょっと宿一緒の日本人とかに相談してみるわ! 体は元気やから〜 また明日連絡するわ!」

ツーリストポリスで冷たい仕打ち

消え入りそうなほど落ち込み、この数時間でどっとやつれ、宿に帰り日本人の方々に相談。ともかく警察へ行ったほうがよいということで、ツーリストポリスへ。

そこで事の詳細を全て英語で説明・・・苦しい。苦しい難しい。拙い英語力と残りわずかな体力でようやく説明し終えたところで、

「で、どうやったらそんな簡単に他人のカードを使えるんだよ。暗証番号とかいるだろうが。それにカードは盗まれてなくてお前の手元にあるじゃないか。」と一蹴される。

最近は、店頭とかで暗証番号無しに買い物できたり、ネットショッピングなんかだとカード番号さえ分かればすぐに使えるんですよ・・・でそこで利用するだけしてまたカードを戻したんですよ・・・

「どうやってそれを証明できるんだ?信じられないぞそんなこと。」そんなこと言われたって・・・「で結局お前はどうして欲しいんだ?」被害届を書いて欲しいんです・・・「無理だね。何も被害を証明できるものがない。それに事件はプノンペンで起きているんだ、ここでは無理だ。」

事件は現場で起きているらしい。そりゃそうだ。

もう何一つ言い返せる体力が無かったので、諦めて帰る。「おい、こんな真っ暗な中どうやって帰るんだ?」バイクタクシーでもひろいます・・・「もう20時だぞ!バイタクなんか走ってないぞ!」じゃあ歩いて帰ります・・・・。大袈裟なくらい肩を落として歩き始めると、「あーちょっと待ちなさい、乗せてってあげるから。」

そう言ってバイクの後ろに乗せてくれるポリス。ありがたいんだけど、できれば被害届を発行してくれたほうが・・・とは言わず、ごく普通の会話をする。「アンコールワットへは行ったのか?」まだ・・・「そうか、アンコールワット以外にも沢山見所があるから、もし行きたくなったら私に電話しなさい。連れていってやるよ。」ありがとう。オークン。「ははっオークンか。」

正直見所を練り歩く余裕なんて微塵もなかったけれど、ポリスの優しさ心に染みた。宿に帰りまたドミトリー客の人達に話すと、少し落ち着きを取り戻し、そのまま眠りについた。そう言えば朝から何も食べていない。食べられない。

一難去るも、引き続き血の気は引きっぱなし

早朝5時に目が覚める。昨日の出来事を思い出し心臓が鼓動を高める。顔面の毛がさわさわと逆立ちまた血の気を引き始める。百万円・・・一年以上かけて働いてためた百万円・・・なくなっちゃった。

いいや!なんとしてでも取り返さねば。7時にネットカフェへ行き、カード会社へ半泣きで電話。昨日営業時間が終了していたほうに問い合わせると、「30万円の決済をしようとした履歴がございますが、お客様のカードの限度額は25万円ですので、不承認となっております。」

ということは、取り消せるってことですか!?

「そうですね、不承認ですので決済されません。ご安心ください。」このご安心下さいが神の一言のように思え、んはりがとうございまぶぅぅ・・・!!と情けない声でお礼を言う。

もう一枚の、40万円しっかり利用されたほうへも再び電話、そして説明。「さようでございますか。それでは今回の決済は不正利用ということで、わたくしどものほうで補償させていただきます。」

よ!よがっだ・・・。 はっはりがとうごはいまふじゅ・・・。ここでも情けなくお礼を言い、ほっと胸をなでおろす。

とりあえず、30万円で済んだのだ。どうにかなりそうなのだ。久々食欲を取り戻し、レストランでヌードルを。ううんやっぱり味、微妙だけれど、もうこの際気にしない。今僕はこうして生きている。それだけで、それだけでいいわけじゃないけど、強制帰国は免れたのだし、よしとしよう。

すると向かいの席にカンボジア人のカップルが座り、話しかけてきたのでしばらくしゃべる。が、つい警戒してしまう。そこで写真を撮らせてとお願いすると喜んで笑ってくれたので、ああ、この人達は普通の地元民だな。精霊祭がどうのと意味不明な理由で写真を拒んだりしないな。と少し安心する。

そもそも精霊祭ってなんだ。馬鹿馬鹿しい。バカはおれだ・・・

その後近所を散歩、マーケットをみてまわったり して宿に帰ると、「ご飯にアリのっけて食べる村にいきませんか?」と誘われる。えっ・・・!アリ?ALI?蟻?食べてみたい気もするが今はアリご飯どころではないので丁重にお断りして、またネットへ。母親からメールALI。以下再びメールのやりとりをコピーアンドペースト略してコピペ。

「日本大使館にいって帰るお金借りたら?いろいろ聞いてくれると思うよ」

「それもええけど、そういやシティバンクのキャッシュカードももっとるんよ。 やけんおかんの口座にあずけとる俺の残りのお金をそっちに送金してくれたら銀行でおろせると思う。 これはクレジットカードとは違うけんまだ使えるはず。あと、おかんのカード会社に、あの30万がいつどこでどうやって使われたかもっぺん確認とってくれん?でもしその明細なりなんなりがもらえるならもらっといてほしい。迷惑かけます」

「残りのお金1か月はおろせんみたい。新しいカードがくるまで。とにかくどうにも今はできんのよ。」

「そっかあ。ってえ!まじ! 一ヶ月おろせんの!? じゃあどうしよあと数十ドルしかないけんなあ。 トラベラーズチェックっていうお金のかわりになるやつに替えて、 俺のとまっとる宿に送ってくれまいか?そやないとちょっと身動きとれんかも。。。 30万はそのまま俺の分落としといてや。残りの金で旅して、
で少なくなったらオーストラリアいって働くけん大丈夫。 でもほんと、30だけでよかったわ・・・」

現金をどうやって手に入れるかあれこれ考える。あ、そもそも何故母親のカードを僕が持ち歩いていたのかといいますと、海外のATMで容易に現金をおろせるよう対応していたのが母親のカードのみだったので、そこに旅の資金を預けて、借りていたのです。本当はクレジットカードでなくとも銀行のキャッシュカード等で容易におろせるものがあるのだけれど、この当時の僕は知らなかったのです。愚か!

「お金は月曜に振り込みするから待ってやね。又できるかどうか聞いてみんと。」「泊まっている宿を教えて!トラベラーズも聞いてみるから。」「今知り合いの外務省の旦那さんに聞いてもらっているけど。最悪日本大使館へ行くか電話して事情を話して。それから2時間以内に宿の電話教えてくれたら外務省からMさんが電話してくれるよ、早く教えて、シテイバンクのローンはつかえんのかな?」

「○○ゲストハウス010-855-12-922×××。なんやけど、日本大使館はもうこっから五時間かかるとこにしかないから戻れんわ。 トラベラーズチェックは銀行で発行してもらえるらしい。 けど何日かかかるかもしれんから、それやったらキャッシュにいれといてほしい。でもキャッシュカード、カンボジアでは使えんくて、バンコクまでもどらないかんから、 今の有り金でさっさとバンコクもどればなんとかおろせると思う。ローンにしても、バンコクじゃないとできんぽい。外務省のMさん?一応事情説明した方がええかな。 いますぐ宿もどって電話まっといた方がええんやったら戻る。」

「016××35○○のTさんにすぐ電話して。カンボジアの大使館の人でMさんがあんたから電話あると言ってくれている。」

何故か外務省の方とのネットワークを持っている母親に言われるまま、カンボジアの日本大使館のTさんへと電話をかける。「ああ、話はきいてますよ。大変でしたね。」そこで現金入手における解決策として、大使館の口座へ母親から送金をしてもらう方法をメールで送ってもらうことになり、お礼を言い、切る。

宿に帰り、また他の日本人の方々としゃべり、皆で晩飯を食いにでかける。そこで、己の不注意からこんな目に遭った僕を哀れんでくれ、なんと、おごってくださった。でも今ちょっとおごってもらうの恐怖です。「だははは。そりゃそうだ。」

事態はまだ何も片付いていないが、母親や周りの方々のおかげで、少しづつ良い方向にむかっている。しかし、何てこったい・・・。ああ愚か!

何も片付いていないのにのん気に観光するとはなにごと

毎朝のネットが日課になりつつある。自業自得だ。

「おかんの考えをいいます。カードがどれも使えなくなるやろ?一時帰国してお金もきちんと入れ換えてカードも作りかえて出直したほうがいいんじゃないん?帰国費用だけ借りて。大使館の田辺さんに連絡とれた?よく相談して考えてみてや」

「おはよう。Tさんと連絡とれて、そしたらおかんから俺に送金する方法教えてくれた!!
以下
1.銀行送金(パスポートを提示して受け取る方法)
・送金が到着したら銀行より大使館に連絡が入ります。その後、ジャミラ様に連絡いたしますので、銀行へパスポートを持って行き、現金を受け取る こととなります。
*送金は、約2日間かかるようです。また、送金受領時に銀行手数料として US5ドルを徴収されます。

2.銀行送金(日本大使館で現金を受け取る方法)
パスポートで受け取る際と同じくUS5ドル手数料を徴収されます。
・送金がありますと(約2日)、大使館に銀行から連絡が来るので、送金額の現金を入手後、ジャミラ様にご連絡させていただき、大使館でお渡しすることとなります。
以上、ご連絡までにて失礼いたします。 また連絡を取り合えればと存じます。 これからのご滞在、どうぞくれぐれもご自愛下さい。 在カンボジア日本大使館 領事 T

やから、何万かだけ、バンコクにいけるまでプラス余分ぐらいの分だけ先に大使館の口座にふりこんでもろて、でまた郵貯おろせるようになったらシティバンクのキャッシュ口座にうつしといてほしい。そしたらバンコクでおろせるから。やけん帰国はせんでも大丈夫そう。もうカードはもたずにトラベラーズチェックでまわろかな。」

「わかった。くれぐれもTさんによろしくと。助かったね。Mさんにもお礼いっとく」

その後、マーケットへ。名物らしいかぼちゃプリンを食べに。なぜかぼちゃ。実は、カンボジアから渡来したからかぼちゃはカボチャという名前になったらしいのだ。へぇカボチャ、カンボジア、なるほど!などと考えるでもなく考えながら宿に戻ると、日本人の方に「西バライへ行かないか?」と誘われる。なんだか分からないがいい所らしいので行ってみることに。トゥクトゥクに乗って20分程で到着。

なるほど西バライ!湖がある。歴史的背景は各自グーグル検索をお楽しみいただくとして(本当は何も知らないだけだなんて口が裂けても・・・言える)、ここからボートに乗って湖の中ほどにある西メボンという浮き島のような所へ皆でチキン一羽とカエルのソーセージ、それからご飯を買って遠足気分で向かう。風が気持ちいい。

ほどなくして西メボンにたどりつくと、バイクタクシーがまちかまえていた。ここから島の中心まで、わずか数百メートル。兄ちゃんこれは商売にならないでしょう・・・。

歩いて向かうと、遺跡発見!一同感激。ドラクエみたいじゃないかこの遺跡!するとどこからともなく「オニサンカコイイネココイチドルゥ」という謎の呪文を唱えながら物売りの子供達がやってきた。誰かパロプンテ使った?

手作りアクセサリーの類を「5個1ドル」で売りたいらしいのだが、何度きいても「ココイチドルゥ」なので、どうしてもカレー屋を思い浮かべてしまう。装飾物にもともと興味がないので、「ココイチやなくてゴコイチドルやで」と日本語を教えたりして話をそらし、「逃げる」。パーティは逃げた。

休憩所のようなところで、買ってきたランチをひろげ、皆でいただく。ハンモックに揺られ、湖を眺めながらいただく地鶏の丸焼きのうまさったら、ないね。いや、あるね。

その間も攻め来るモノウリの呪文「ココイチドルゥ」。かわいさとしつこさに負けて、1人1個づつ選び5人で1ドル分購入する。ようやく敵の攻撃がおさまったところで、昼寝。ハンモック・・・気持ちいい・・・きもち・・・暑っ!!

寝汗をかき目が覚め、島を一周して子供達とグラビア撮影会を楽しみ、再びボートへ乗り込む。またトゥクトゥクで宿まで帰る。すると今度は「キリングフィールドへ行かないか」と誘われ、行ってみる。

おびただしいほどの頭蓋骨・・・映画村かなにかですか?いいえ本物です。過激な共産主義者、ポルポトによる弾圧で殺害された何の罪も無い人々の骨。この骨が、ほんの30年ほど前には肉体を持ち、笑ったり泣いたり、生きていたのだ。生でみる人骨の迫力におののく。すると、その骨の山の前で記念撮影をする観光客が。なんだか違う気がする。

少し凹んで、宿に帰る。夜、またしてもお誘い。「ベンメリア行かへん?」バスをチャーターして割り勘で行くとお安くすむそうなので参戦を表明。

そしてダハブという、エジプトのダハブという町で生まれたらしいトランプを使ったゲームに興じる。最低7人からというこの大所帯ゲーム。要は、ウソつきゲームのようなもので、平民とキングに分かれ、殺しあうのだ。

といってもドラクエではないので実際に武器を手にして戦うわけではない。パロプンテもルーラも使えない。が、キングなのに平民のふりをしたり、高い演技力を要するのでドキドキする。深夜3時までドキドキしっぱなして、寝る。

天空の城と現実

7時前に起床し、総勢10人でベンメリアへと向かう。これもまた遠足のようで楽しい。1時間半ほどで到着、入場料5ドルを支払い、10人一斉にバスを降りる。ここは天空の城ラピュタのモデルにもなったといわれている場所だそうで、フンイキはまさにスタジオジブリ。

超巨大アスレチック風な遺跡がゴロゴロとしている中をトレジャーハンターの面持ちで踏み入る。楽しい。遺跡なのにぐんぐん中に入れるのが冒険心をくすぐり、楽しい。好き好きにみてまわり最後に10人で記念撮影、まさしく遠足。

昼過ぎには宿に戻り、せっかくだからと遠足の勢いそのままに10人で昼飯を食べにでかけ、マーケットでカキ氷をいただき、帰りにネットカフェへ。そう、忘れちゃいけないカード問題。

「お父さんに話したよ。絶対帰国しなさいと(怒)っている。ともかく一時帰国しなさい。カードのお金の事もあるし。親の心配や、今度の事は迷惑かけた人がおるやろ。あんたの気持ちもわかる。今いちどお父さんにわからせないと、おかんも辛い。詳しいお金の事はお父さんには話してないよ。ただ今回のような事がこれからもあるとお父さんは心配していると。

いくら自分のお金で行くからといえど遊びだから。と。あんたが人を疑わないのは良いことでも、あまりにも甘い考えだったのは事実やろ!他人に貴重品をまかせたのは。けじめつけてもっとしっかりしてから、動いても決して遅くないと思う。外国は日本と本当に違うやろ。身に染みたと思うよ。おかんはジャミラに大きく生きて欲しいけどまだまだ勉強も必要だと思うよ。」

「一時帰国、おとんが怒るんももっともやけど、何言われてもウガンダまではいきたいんよ。 やから今いっぺん帰ったらすごい金かかるから、できれば帰りたくない。 迷惑かけとんもわかっとるけど、ここで終わらせるわけにはいかん。おとんとわしの板ばさみで、さらに大使館やらとの連絡とか、 ほんとごめん。」

「うんでもな、いろいろな人をまきこんどるんやで。代議士に知り合いがあるだけで感謝せんとね・ジャミラの気持ちはようわかるが。」

「わかった。 まきこんだんはほんと申し訳ないと思う。 皆が優しくしてくれるんほんと感謝しとるし、それでまた自分も人に対する接し方改めようと思ったり学ぶこともいっぱいやった。もうちょっと時間ちょうだいや。 でもとりあえず、今すぐは帰れんわ。 友達が俺のためにタイまで会いにきてくれることになっとって、それが5月21日でもうチケットとってくれとるから今からキャンセルとかさせれん。 わがままぎりやけど。」

「お金の事よりまずお父さん宛てに手紙でジャミラの心情と謝りを送りや。今のおかんはそれしか言えないよ。皆が心配しよる。現実を見て行動しような。ジャミラも十分解っているとおかんは思う。考えてやね。」「お父さんが夕べ(泣)そうにいよったよ毎朝毎晩仏さんにジャミラの安全を頼みよる気持ちわかるか?と。帰ってほしいと。」

怒る、とか泣く、というのが携帯で変換されたため(怒)、(泣)となっているのはこの際気に留めず。こちらの想像以上に大変な事になっている。そりゃそうだ。心配や迷惑ばかりかけ、さらに我侭を通そうとしている愚息には両親ともども参っているだろう。普段滅多に連絡などとらない兄からもメールが届き、励まされる。反省し宿に帰り、皆と飯を食みおしゃべりなどして、就寝。

それでもカンボジアへ来たんだから、行かねばならぬのは

アンコールワット。5時に起床し少し肌寒い風を浴びながらトゥクトゥクでやってきた。カンボジアに旅行しに来て、アンコールワットに行かない人なんて、動物園に行って象さんを見ない人ぐらい少ないだろう。象さんは絶対だ。まだ辺りは薄暗いのに、すでに沢山の客客客。朝陽がのぼるのを座って待つ。

ご存知わたくしカメラ小僧。写真撮る撮る。赤く陽がのぼってきた。神々しいほどに美しい。のぼりきったところで、散策開始。実は遺跡の類にはあまり興味ないのだが、それでもこの凄まじく細かい彫刻の数々。これが900年近くも前に作られただなんて聞いた日にゃ・・・感動せずにいられない。

階段の段差が急だったり、日差しが強力だったりで少し疲れ、ちょうど一周したところで朝食も兼ねて休憩へ。久々オーバルティン(甘いチョコ飲料)を飲む。やはりうまい。店のおばちゃんがサービスでパイナップルをくれたけど、うん、おばちゃんのおてての味がしたよ・・・。ありがとう。

体力が回復したあとはもう一つの遺跡、バイヨンへ。こいつもスゴい。繊細な彫刻や設計に感動・・・あれ?感動・・・あれ?

あっついんだよ。暑さと疲れで感動が徐々に薄れる。でも・・・全部みなきゃもったいない・・・必死で象のテラス、王宮とみてまわる。

うあああああ!!!汗の量が尋常でない。「全クリ!」サラっとみて全クリしたことにして、次はトゥクトゥクでタケウという遺跡へ向かう。はっ・・・階段・・・こうなりゃ意地だ。遺跡を楽しむことなくただの意地で階段を上がり、上にいた地元の少年とおしゃべりをして、トゥクトゥクへ戻る。

お次はタブロム。木々の間の道を歩く。すると途中地雷被害で足を失った人達が民族楽器を演奏していた。いい。なんだかメロディが、いい。そうしてぐるっとまわると完全ノックアウト。もうダメだ。ばてる。ごちそうさま!宿へ帰る。

オムライスとコーラを昼飯にいただき、水シャワーをがばっと浴びてネットへ。そう、絶対に忘れちゃいけないカード問題。

「今日送金米ドルで12万円分したよ。2日後やろ!つくのは。大使館口座に振り込みしたけんね」

「普段あんましゃべらんけどおとんが心配してくれとんはようわかる。 で今回改めてまたわかった。兄からもメールきて励ましてくれたわ。 ほんと迷惑ぎりかけて悪いとおもっとる。俺自身辛い思いして戻りたいて思うけど、やっぱ今はまだ帰れん。帰ったらいかんと思う。 ともかく、うんいっぺんおとんに手紙かくわ。入金ありがとう。またお金受け取れたらゆうわ。」

「わかった。トラベラーズチェックもかなり危ないと銀行の人が言っていたよ。ともかく一ヶ月たたんとおかんの郵貯がおろせないからね・それまでに考えなさいや。なんも帰って来ることがいかんことは絶対ないからね・お父さんに解ってもらえるよう。書きや。カードなしでは続けられないよ。頭に置いといてね。」

宿へ戻ると17時頃だったので、再びトゥクトゥクでプノンバケンという丘の上にある遺跡をみにいく。そこから眺める夕陽がコレモンらしいのだ。どれもんだ。だがそこは私ジャミラ。雨男です。夕陽を待つまでもなくどんよりと重い雲がたちこめた空。おまけに雷。あきらめて帰る。

宿で飯。うまいのだ。ここの飯が。そしてここで読む「うる星やつら」の面白さよ。カードの案件以来何度となく元気をくれた漫画。ありがとう高橋留美子さん。

また一難あるのは世の常

7時に起床し父親に手紙をしたためる。謝罪と、お願いを。そうして郵便局に出しにゆき、帰りにネットへ。

「手紙送りました。分かってもらえたらええけど。んで、 いろんな人に相談したんやけど、やっぱ、俺がもっとった云々じゃなくて、おかんのカードが被害にあったんにはかわりないんやから どうにかなるんやないん?って皆いよった。

第一、カード会社の方から、「不正使用されてませんか?」って問い合わせあったんやろ? それで実際不正使用やったんやから、補償できんっていうのがおかしいと思う。って。蒸し返してごめんけど、もし取り返せるなら取り返したいし。手紙届くまでもうちょいまっといてや。」

「今セゾンに問合せたよ。なんど聞いても同じ、おかんが自分でもっていないことが契約違反だから補償の対象にならんらしい。無理と言うことよ。カードは紛失届けだして再発行してもらうから。今のカードはきちんと処分してや。もう30万の事は今は忘れなさい。おかんも安易に貸したのがいかんからね。勉強代よ・体が無事やったと思えばいいんじゃないん?返す事は先の話よ。心配せず。これからの事考えや。」

「そっか。わかった!きっぱりあきらめるわ。」

宿に戻りうる星やつらを少し読み昼寝、洗濯などして再びネットへ。

「ジャミラ至急コレクトコールしなさいカード会社の担当が詳しく話きかないと補償できないと言っているよ大変なことになるよ。」

40万円やられ、事情を説明したら補償しますと言ってくれたカード会社のことだ。急いで電話をかける。凍りつきそうになった。人って、凍りつけるものなんですね。しばらく正常に打っていた脈がまたしても乱れ始める。

以前よりも詳しく説明すると「そうですか。ですが、そもそも会って3日やそこらの人と一緒の部屋に泊まるというのは、常識では考えられないと思うのですが。ですので補償はできないかもしれません。」と苦言を呈される。

その事に関してはここ数日で骨身に染みるほど思い知らされています・・・でも悪用されたことに変わりはないじゃないですか・・・と消え入りそうな声で返す。

「いずれにしても、補償の手続きをするにはポリスレポートが必要になりますので、とりあえずそちらをもらってきて下さい。こちらももう少し検討させていただきますので。」分かりました・・・

何をどう検討するのかは分からなかったが、とにかくポリスレポートが必要・・・。この間相手にしてもらえなかったツーリストポリスへもう一度向かう。

「だから、それをどう証明するんだ!?何も証明するものがないのにこっちはレポートなんて書けないぞ。事件もここで起こったわけじゃないし。」事件は現場で・・・前回と同じようにあしらわれ、前回と同じようにとぼとぼと宿へ帰る。

どうやら、プノンペンへ戻るしかないようだ。第一、送金された現金を受け取るにもプノンペンにある日本大使館へ行かないといけない。バスのチケットを購入し、ようとしたら、もう手持ちの現金がない・・・。

あの、本当に申し訳ないんやけど、20ドル貸してくれんやろか・・・?バンコク戻ったら返します!

同じ宿に泊まっていた同い年のユーヤ氏に頼む。快く、ではないだろうけど貸してくれ、どうにかバスのチケットを購入。情けない。折りしも今日はユーヤ氏の誕生日だというのに。二重に申し訳、ない。

どんどん周りに迷惑をかけている自分。どんどん押し寄せてくる後悔の念。ひいてゆく血の気をどうにか取り戻そうとうる星やつらを読む。だははは。少し気が楽になる。

ネットへ行き母親へメール。

「電話して説明したら、一瞬でも自分がそいつを信じ込んで、そいつの金庫に入れたのは俺の責任やってゆわれて、補償できんかもていわれた。 補償するにしても、警察のレポートと、俺のサインがいるって。 警察は二回いったけど信じてもらえず、レポート書いてもらえんかった。 やからTさんにゆって、明日朝バスにのって大使館があるプノンペンに戻って、 そこでおかんからのお金うけとって、相談して、でもっぺんプノンペンの警察にゆってみる。

各カード会社に、明細かなんか作ってもろて、それを証拠としてもっていけば、レポートもらえるかもしれん、望みは薄いけど・・・ とにかく、どっちにしてもいっぺん帰国せないかんみたいやわ・・・ 今日送った手紙はまあ無視しといて。 でもやっぱ5月25日まではかえれん。ちょっと今回はかなり疲れたな・・・ 日本人の友達にお金かりてしまった。二千円ぐらい。情けないわ。 また明日連絡するけん。」

「しんどいやろな。でもこれが現実。命があるだけまし。お父さんが絶対すぐ帰国しなさいと。友達に事情を話してキャンセル代がいるならお父さんが払うからと。今は緊急事態やろが。友達がくるまでのんびり一ヶ月タイへいても仕方ないしそんな事している場合じゃないやろと。おかんも悔しいよ。早くに、その人を信用するな用心しろ、カードは肌身離すなときつく言ってやればよかったと。

でもそんな事も後の祭ね。親も甘かったと。だから素直に帰国してや。一応の調査ができたら。おかんのカード会社はもう調べてはくれんよ。明細もまだわからんといわれた。ジャミラ、なーんも悪い事ないんよ、旅へでて解ったことがあっただけでもプラスやろ。頑張ったよ帰っておいで」

床に着き考える。たとえ一時帰国しなければならなくなっても仕方がない、自業自得だ。また働けばいい。働く足すら持たない人もいるのだ。明日食べるものすらない人もいるのだ。自分は幸せ者だ。そして調子に乗りすぎた。ここで卑屈になってはいけない。人生まだまだ長いのだ。まだまだやれる。あたしへこたれへん!辻本清美の心境だ。

大使館で救われる

翌朝、一足先にバンコクに向かうユーヤ氏を見送り、8時過ぎのバスに乗り込みプノンペンへ向かう。いや、戻る。5時間ほどかけて・・・。最高だったはずの最悪な思い出が鮮明に蘇る町に到着し、同じくシェムリアップからプノンペンへやってきた(戻ってきたのではない)日本人の方々と宿にチェックインし、大使館へ急ぐ。手持ちの残金ぴったり1ドル。やったね・・・。

日本大使館。立派な建物だ。荷物検査をすませカメラとipodを預け中へ。用紙に必要事項を記入し、しばらく待つとTさんが現れた。

個室へと移動し、そこで無事送金された現金を受け取り、改めて事件の詳細を説明する。親身に心配してくれるTさん。

「警察へ届け出ましょう。私が警察のほうへレターを書きますので、それを持ってもう一度行ってみてください。」んな、なりがとうございますううぅぅ!!がやはりどうやって使われたか証明する必要があるとのことで、電話をお借りし今一度カード会社へ、いつどこでいくら使われたかを尋ねる。が、営業時間外、また明日かけなおしてくれと言われ断念。

また明日大使館へ来ることにして、今日のところは退散する。日本人の方々と合流し屋台で飯を食う。炎の料理人!みたいに中華鍋をふりまわすオヤジの炒飯がパフォーマンス込みで美味かった。宿へ帰り、皆でトランプ。トランプといえば、もちのろんで大富豪。大富豪の中毒性は恐ろしく、この日も深夜までやり続け、就寝。

ベッドでまた考える。旅ってめまぐるしいほどに出会いと別れの繰り返しで、人生の縮図みたいだ。今日も沢山の物乞い、体の不自由な人に会った。その人達と比べるのは情けないけど、本当に、たかだか数十万の被害でひーひーなんて言っていられない。ジョンとリチャードは憎たらしい。けど、いつかバチがあたって自分にかえってくるはずだ。正しく生きよう。どんなに辛くても他人を陥れたりするような奴にはなりたくない。

一難去ってまた一難、それも去ったらもう、大丈夫。

皆と朝飯をともにいただき、一息ついたら大使館へ。Tさんに会い、また電話をお借りする。カード会社へ電話。利用明細をたずねる。

いずれも同じ店で使われていた。phat hay phone というケータイショップのような店名。時間は18日の昼前。

丁度僕がスパに居て全裸でもまれまくっていた頃だ。

インターネットへ行ってくると言いホテルに戻り、金庫からクレジットカードを取り出し、そのケータイショップで使用。そしてまた金庫に戻す。それにしてもこんな高額、カンボジアの物価からすると高すぎるほどの金額を使用できる店って。もしかしたら店もグルなのかもしれない。憎しみが湧き上がる。

ともあれ明細を伝え作成していただいたレターを受け取りお礼を言い、その足でツーリストポリスへ。既にTさんのほうから電話連絡もしてくださっているらしい。

チーフだか署長だかのモムさんはいらっしゃいますか?「ああ、今昼休み中だ。また1時に出直しなさい。」えっでも今すぐ来いって言われてきたんですけど・・・「私がモムだが。」あ、あなたが・・・!

安っぽいドラマ仕立てで登場したモムさんに通され中へ入り、Tさんからのレターを渡す。「うむうむ。なるほど。それでは、細かいことは彼に説明してくれ。」

隣にいたモムさんの補佐のような人へ、シェムリアップの警察に二度説明した内容をまたしても・・・電子辞書片手に説明する。

が、今度は「そうかそうか、なるほどね。それで?」と肯定的な態度の補佐。だが同じように「で、どうやったら他人のカードを使えるんだ?暗証番号とかいるだろう?」ときかれる。

いや、最近は暗証番号無しでも買い物できる店がありますし、サインだって適当に書いても分からないこともあるでしょうし・・・phat hay phone という店で使われたみたいです。

「ん?なんだって?聞いたことあるぞ?」地図を広げる補佐。「ここだな。」なんと!僕とジョンが騙し騙されながらもトランプなんかして楽しんじゃっていたホテルの真向かいに位置しているではないか。なんて近場で・・・。ますます憎い。

「ふむふむ、なるほどね。で、どうして欲しいの?」ポリスレポートをいただきたいのです。それがないとカード会社に補償してもらえないので・・・。「それじゃあ、待ってなさい。」えっ。

レポートがもらえるかどうかも分からないまま、待つこと数十分。「ほらよ」ってこれレポートじゃないですか!はぁっうあぁっありがとう!オークン!「だはは、オークンだとよ!ところでお前さん、犯人の写真とかないのか?」全裸マッサージに興奮し、スパの入り口付近を撮影した際、密かに写りこんでいた男の写真が、実はあった。あります!

近くの写真屋でそれを大きめサイズで現像し、提出。「やけに大きめサイズだな。よし、じゃあ、こっちでも探してみるから。ご苦労。」

正直ジョンを捕まえるのは無理だろうけれど、レポートが手に入ったのだ。これで40万の補償はきくはずだ。助かった。すぐさまカード会社へ電話をかけレポートを入手した旨を告げると、「左様でございますか。それでは、ジャミラ様もきちんとポリスレポートをもらってきてくださったので、今回はこちらで補償させていただくことにします。」ほっっっ。ようやく全て、終わった。母親へも急いでメール。

「よかったねー嬉しいよおかんは。安心した。Tさんに感謝やね。今夜はゆっくり休みよ」

「警察が動いてくれたのは本当にTさんのお陰やね。頭下がるよね。ここまでしてくれる人はおらんよ。日本から食べ物、海苔とか詰め合わせて送ろうやね。Tさんの写真は撮らんかったん?記念に。成田でええよ。気を付けて帰っておいで。」

の、海苔?そして何記念だよ、Tさんと撮る写真てのは。

「ほんとTさんおらんかったら無理やったわ。 写真は大使館内とれんから無理。 ええ人そうな顔したええ人やった。」

するともう一件、バンコクへ向かった20ドル借金中のユーヤ氏から「バンコク行けなんだ。タイから出国するときの航空券がいるんやて。」とのメールが。しかも明日プノンペンまで戻ってくると。基本的にタイへは第三国へ出国する航空券が無いと入国できないのだが、それにしても殺生な・・・えぇ・・・。

ともあれ、ようやく片付いたフィリピン人精霊祭事件に胸をなでおろし、皆で中華料理屋へ。餃子はうまいし、安いしご飯はおかわりタダだし、食後にはスイカのサービスもあったしで心身共に満足。さらに次なるギョーザ屋へとハシゴする。店の娘、かわいい。ダーという名の少女と写真を撮り、「写真ちょうだい」と言われ、じゃあ明日持ってくんね!と約束する。俺、今、幸せだー!

早速写真を現像に出し宿に帰る。ダー!幸せなあまりさっき買ったペットボトルの水を振り回していると3階から落としてしまった。すると下から「アブナイヨーーーー!!!!」と片言の日本語が。ゴメンチャイヨーーーー!!

しかし「アブナイヨー!」と咄嗟に返せるとは、誰だかしらないがハイレベルな奴だ。

かわいい娘とは微妙に縁がない

翌朝次なる目的地へと旅立つ皆を見送り、陸路でバンコクに戻れないなら空路でどうだ、とプノンペン市内の旅行代理店をたずね歩く。しかしどこもバンコク行き航空券、100ドル以上。バスだとほんの15ドルだというのに。これは無理だ。

練り歩くのをやめにしてネットへ。そこでカンボジア〜タイ間の国境について検索する。やはり第三国への航空券は必要らしい。つい先日同じルートでタイに戻っていった、ロドス(ラオス)で出会ったサリーにメールをする。「大丈夫やったで」うっそん。

午後3時頃、ユーヤ氏が見事戻ってこられた。そこでお借りしていた20ドルを返し、会議の結果「リベンジ」。もう一度同じバスのチケットを購入する。「大丈夫やったで」と数日後言いたい。これ以上の面倒はゴメンです。

夜は夜とてまたしても中華料理屋へ行き、その後ダーのいるギョーザ屋へハシゴ。写真を手渡すとはにかみながら「サンキュー」。他の店員の娘達が「なによそれみせなさいよー」などと茶化している。

うむ、平和だ。実に平和だ。帰り際に「また明日ね」と言われ少し切なくなる。明日はもう、来られないから・・・。ベトナムの時もそうだったが、何故毎回国を出る直前にちょっと小気味良い出会いが訪れるのだろうか。それでも進まなければならない僕。そんな余裕今無いから・・・

やや緊張気味の国境線

朝7時のバスで、いざ国境の町ポイペトへと向かう。この国境は悪評が高く治安もあまり良くないそうだ。加えて悪路。途中休憩をはさみつつ、凸凹道をつきすすむ。ユーヤ氏はこれを往復したのか・・・きつい。15時頃無事ポイペトに到着。んが、特に危険な雰囲気は感じられず。

「航空券はもってるか?」ときかれた際の、あはい持ってますですがネットで予約したので今手元にはチケットはないんです。でも予約番号とフライトナンバーならありますよほら。という完璧な言い訳とでたらめを記入したメモを片手にイミグレへ。

―――昨日から今日にかけてのあの緊張って一体なんだったんだろうか。出国、簡単。入国、簡単。

なんなら入国側のスタンプ係、隣同士おしゃべりとかしながら僕達のことほとんど見てないからね。ほどなくユーヤ氏も入国完了し、バスを乗り換えバンコクへ向かう。このバスが、カンボジアならVIPなんじゃないかと思われるほど立派なもので、タイの素晴らしさを改めて知る。きれいに舗装された道路も不快感ゼロ。

21時過ぎ、見覚えのある町カオサンへ到着。勝手のわかる安宿へチェックインし、勝手のわかる屋台へ行き飯を食らう。ばかうま(ばかみたいに美味いさま)。

さらにロドス(ラオス)で別れたミキさんとばったり再会。ああ、色々あったが、よかった私今バンコクです。

それから数日、格安航空券を探し歩き、ヨガに通おうと試みるも連日大雨で身動きとれなくなり、スパイダーマン3を公開初日に観に行き、うまい飯を食い、至極平和に過ごす。

長旅に出たんじゃなかったの?

バンコク最後の朝も大雨、それよりも、航空券買ったのに、フライト今日なのにまだ手元にないってどういうこと。

昨日「夕方チケット受け取りにきて」と言われ19時前に行ったら、店、閉まってやがったのだ。フライトは13時、店が開くの11時、ま、間に合わないよねこれ。

地団駄踏みつつ慌てていると、偶然店の男に出くわした。あー!今日乗るんやけどまだ航空券もらってなくて昨日いったらもう閉まってて今日はまだ開いてないしえーと・・・「これ?」

胸ポケットから無造作に取り出されたそれはまさしく僕の航空券!これも幸運のうちなのだろうか。ともかく急いで宿に帰りユーヤ氏にお礼と別れを言い、予約しておいた空港行きシャトルバスへ。

間に合わなかった。

「フライト何時?」13時「次のバスだと間に合わないわよ!タクシーで行きなさい!」最後の最後にいつも慌てなければならないのは日ごろの行いが悪いからなのかツメが甘いのか、DOTCH?おそらくどちらもだろう。バスをあきらめ若干値の張るタクシーで空港へ。

結論から言うと次のバスでも余裕で間に合っていた。空港で一時間強待つ羽目になるなんて。でもいい。平和です。そんなこんなでベトナム航空機へ搭乗、ホーチミン経由で成田へ。ホーチミン空港で8時間待ちだったことなんて、一週間前のあの悪夢に比べれば朝飯前の昼飯前だ。



こうして、「二年近く帰ってこれないかもしれない・・・皆、どうかお元気で!」と格好つけて出国したわずか二ヶ月後にこっそり帰国と相成りました。 ウマい話には裏がある、それを自らを犠牲にして体験してみせた勇敢な男ジャミラ。だなんて誰も思わない。どれほど愚かだったかはもうそれはそれは血の気を引かせながら思い知りましたので、これ以上せめないでやってください。これにこりて旅なんて二度と

します。旅は、終わらない。


カンボジア(2007年4月15日〜4月28日)

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