こういうのを求めていたんです

事前にモロッコの首都ラバットでビザを取るのが面倒だった僕は、ここモーリタニア入国のイミグレーションで、三日間有効のトランジットビザを20ユーロで発給してもらう。三日間・・・て。

残っていた手持ちの220ディルハムを両替すると、7700ウギアになった。100ウギアあたり35ディルハム。ややこしい。

そこから目的地ヌアディボまでさらに小一時間走り、到着。親切なファリーが安宿と両替商まで連れていってくれた。

ナスィバ(HOTEL NASSIBA)という宿にツインで6000ウギア(約15ユーロ。おおまか2000円)で泊まることに。高いじゃんかモーリタニア・・・

トイレの水が流れないうえに前の客の置き土産が残されていたので、すぐさまバケツを貸してくれ、とたずねると、宿の息子がきれいに掃除してくれた。ありがとう。

もうだいぶ辺りが暗くなっていたので、貴重品はバックパックに入れておき、さらにそのバックパックにカギをかけ、外出。

携帯電話用のSIMカードを買うからと近くの路上電話屋さんへ向かうアゲロス。そして話し込む。「オレはー、ギリシャ人でー、ミュージシャンなんです!んで、こっちはジャミでー、ジャポーネ!」どんな相手にも自分がミュージシャンであることを名乗るアゲロスおじさん。そして「トラディショナルな音楽どこ?どこにいけばみつかる?君は何か音楽をやるクチか?」とどんな相手にも尋ね、話し込む。

僕も割りと地元民とはすぐに馴染めるほうだと自負していたのだが、甘い。あまちょろすぎる。アゲロスの、もはや図々しさをこえて清清しいパワーには到底及ばない。

「タクシーのろ!」と行き先も教えずに連れられる。おい!アゲロスどこいくねんわてら!「ヌアディボFM行くんだ。そしたらトラディショナルなミュージシャンがいるはずだから!」

FM局、とはいってもここはモーリタニア、ヌアディボ、普通の家にアンテナつけました、みたいな場所で、一体どこにトラディショナルなミュージシャンがいるんだよ、しかももう真っ暗だよ。と思っていると有無を言わさず敷地内に侵入し、警備員に話しかける。

すると丁度どこかから戻ってきたヌアディボFMのDJボブに会い、「トラディショナルなミュージシャン、どこ!」と尋ねるアゲロス。珍しい、というか珍妙な客が面白いのか、笑顔で色々と教えてくれるボブとしばらく話し込み、今日はもう遅いからまた明日くればいいよ。と言われ「番号!番号教えてボブ!かけるから!」

常に食い入り食い込み姿勢のアゲロス。凄まじすぎる。

ボブと一緒にいたセックという人に、近くのレストランを案内してもらう。ファーストフードレストランで、チキンサンドウィッチを注文。300ウギア(多分90円ぐらい)。

食べ終えて、今度は安宿を教えてくれとセックに尋ね、夜のヌアディボを歩きまわる。フランス語がほとんど分からない僕は残念ながら言葉の端々から意味を汲み取り、あとをついてゆくしかない。フランス語勉強しなかったオレの馬鹿!

しばらく歩くとアルジャジーラといういかにも高そうな宿に到着してしまったので、料金を聞くまでもなく退散。

モーリタニアは道行く車全てがタクシーになり得るという具合なので、道路脇に立って腕を上げていると何かしらつかまるらしい。本当だ。ドライブ中らしき若者集団が停まってくれた。

が、既に六人近く乗っている車にさらに僕達三人が乗るのは無理だろう・・・よ。と次の車を探そうとすると「ジャミ!はよこっち!乗った乗った!」とアゲロス。どこまでも食い込む男。

かくして助手席に二人、後部座席に五人、計八人が乗用車につめこまれる図が完成した。異様にテンションが高い若者集団に合わせ、いや、合わせるまでもなくテンションの高いアゲロスはドアを太鼓代わりに叩きながら歌い始めた。

若者達もそれにノってもはや車中は御祭騒ぎ。爆笑。

もう何が何だか訳が分からないうちにホテルに帰りつき、200ウギアほど手渡しお礼を言って別れる。さあシャワーを浴びて寝よう、と思いきや「ちょっとそこらへんで戯れてみよ!10分ぐらい」とホテルの前の通りへ出る。アゲロス。

そして近くのCD屋さんへ行くならばもちろん「トラディッショナルなミュージックは!?」と話し込む。僕は、カメラをキッズに向けてみる。ギャ!アゲロス並みに食いついてきた!気がつくと10人近いキッズが僕を取り囲んでいるではありませんか。

あらゆる角度から撮影しては、その画像を見せる。一同爆笑。の繰り返しを30回近くして、メモリーが一杯になったのでハラスハラス(アラビア語でおしまい)やで、と散らせる。しかしこいつら、可愛い!

こういうのなんです。こういう、スレてない子供達もしくは大人達と戯れたくて、僕は遠路はるばる西アフリカまでやってきたのです。

部屋に戻りシャワーを浴び、今後のルートや計画等を話し合う。二人ともガイドブックを持ち合わせていないので、世界地図をみながら「オレは皆が行くようなただただ町から町を移動する旅はいやなんだよねー。ちっちゃい村とか、地元の人に教えてもらった辺鄙な場所とかで、トラディッショナルなミュージックを皆で演奏して歌ったりしたいんだ。」

同じく、観光にほぼ全く興味の無い僕は大いに彼の意見に共感。深夜1時近くまで、地図を眺めながら、こことか楽しそうやない!?ここの川ボートで行けたらいいのにな!カーポヴェルデって何!?この島おもろそう!などと少年のように、50のギリシャおやじと、四半世紀の東洋人は胸を膨らませた。

魚市場におそるおそる侵入

「港の市場を見に行きたい」と突然宣言したアゲロスに連れられて、タクシーで港へと向かう。

まだ黒人だらけのジ・アフリカに慣れきれていないボクは、強い日差しのせいでなのかもともとなのか分からないけど鋭い眼差しを四方から受けて若干びびっていた。

手に持っていたビニール袋に入れられたザクロを発見した男に「おい、それくれよ。」と言われえーどうしよハハハーなどと苦虫笑いを返していると「よし!じゃあオレ達も食べるから三つに分けよう!」とアゲロスがいってきた。「冗談冗談!いらんでえ」と笑顔になるザクロ男。さっきの恐ろしい真顔はなんだったの・・・

そして市場の中へと分け入る。もちろん観光スポットなんかではないので、妙な西洋のオッサンと東洋の男は、俄然注目を浴びる。しかもオッサンは手にビデオカメラを、東洋男はデジタルカメラを持っている。

鴨がネギしょってる。

ここで襲われたらオレはもうこのウオ臭い海の藻屑となって消えるんじゃないの・・・。などとあらぬ想像をしたりしつつ中へ中へ。すると、アハメッドという名の若者が「こっちこっち。これ撮ってー。」「次あれね、冷凍庫で作業するおっちゃん。」などと写真スポットを案内してくれ始めた。

並べられたウオの写真を撮って皆に見せると、満面の笑みで喜んでくれているではないか。かすかなアラビア語でコミュニケーションをはかり、皆の写真も撮ってゆく。

誰ですか海の藻屑になるなんて言ったの。ものすんごく普通じゃないの。

「アフリカは恐ろしいぜ。身包み剥がされるんだぜ。」

これがボクが聞かされていたアフリカについての主な情報だったので、変な先入観を抱いてしまっていたのも致し方なかろう。

気を取り直して外へ。無数に並ぶボートを見ながらアハメッドと三人で歩く。

すると、ビデオカメラで港を撮影したアゲロスが警察に呼ばれる。

「何撮ってんだちきしょう。」「個人的趣味の範囲で、売ったりさばいたりする目的じゃないからね!」「だーめだ。それちょっとみせろ。」「今ここでみせちゃうと、バッテリーがなくなっちゃうから!大丈夫!何もないから!」

そこからアゲロスは毎度おなじみのセリフ「オレはミュージシャンで、どうたらこうたらで・・・」を駆使し話題を徐々に摩り替えていくという技を使い始めた。これで最終的にどんな相手でも笑顔でさよならできるんだから見上げたものだ。突然謎の歌を歌い始めたりもする。

そんな、よくわからない魚市場ツアーを終え、宿に戻り、荷物を持ってバス会社まで向かい、首都ヌアクショット行きのバスチケットを購入する。

出発の15時半までまだ二時間以上あるので、先ほどのザクロを二人で食べて、生乾きだった洗濯物をその場で干し、ツメを切り、時間をつぶす。

満員のバスに詰め込まれ出発したのは結局16時。狭っ!暑っ!寝る。

「ジャミ!おいジャミ起きろ!」

走り出して一時間ほどたったころ、突然アゲロスに起こされた。何や人がせっかく気持ちよく寝とるのに。「見てみあれ!世界一長い電車!なんぼほど長いんやあれー!!!」興奮気味のアゲロスに促され後ろを振り返ってみると、

ぬ、なっがああああああああああ!!!!!!!!!!!

砂漠の一本道を、黙々と、砂煙に巻かれモクモクと走るその電車は、世界一車両が長いということでちょっとした見物になっているらしい。どれほど長いのかというと、いうと・・・・

わからない。だって、最後尾車両が見えなかったんだもの。

いくら砂煙が激しくて視界が悪いとはいえ、後ろの車両がみえないということは、かなり長いんだと断言しても差し支えなかろう。

それにしても、渋かった。渋味を感じさせる電車であった。突如眼前に現れ静かに駆け抜ける黒い物体。黒ヒョウに近い渋さです。

また寝る。寝る。目を覚ますと、後部に座っている乗客が皆でおしゃべりをしている。団体ツアー客でもないのに、ただ同じバスに居合わせただけなのにこれだけ親しげにしゃべるなんてことは、現代の日本ではなかなか見られない光景だ。

すると、英語の話せる若者バンバが僕達のところにやってきて「皆二人が新型インフルエンザもってると思ってビビってるよ。」ええええ!?

となりのオッチャンやけによそよそしいなと思ったら、そういうことだったのか!どうぞ、そういった類の菌は持っておりませんのでご心配なくと伝えておくれ、とバンバに頼み、一件落着。それから色々と話す。

「日本人か!日本はいいよなあ!オレ日本好きなんだ。いつか行きたい。」嬉しいこと言ってくれるじゃないか。日本のことはテレビかなんかで見たことあるのか?「うん!アリランていう日本を紹介する番組が昔やっててさ、いいよ日本は。」

アリラン?

や、焼肉屋さんかな・・・それ、もしかして韓国の番組じゃないか?ゲイシャフジヤマスシテンプラーとかやってた?「うんやってたよ!」そそうか、じゃあおそらく日本だろう、けど、アリラン・・・。焼肉食べたい。

陽は沈み、夜の帳がおりても尚砂漠を突き進むバス。手持ちのウギアが底をつき、両替をしないと今夜の宿代が払えないので、どこか夜遅くでもやってる両替商を知らないか、とバンバに尋ねると、となりのオッチャンにきいてくれた。

するとそのオッチャンが両替商だったらしく、何やら誰かに電話をかけはじめた。「バス停にオッチャンの友達が金持ってきて待ってるって。」ありがとう!レートはとことん悪かったが、夜遅くに大荷物を抱えて両替屋を探すことを考えれば、まあいいだろう。

ポリスチェックで二回ほどパスポートをみせてようやくヌアクショットに到着するころには既に21時近くになっていた。

無事両替を済ませ、ついでにそのオッチャンに近くの安宿まで連れていってもらう。HOTEL ADRAR。寝ていたところを起こされ不機嫌、でも人の良さそうなスタッフ、モハメッドに交渉し、二人で5000ウギアのところを4500にしてもらった。

部屋に荷物を置き、今日一日ろくなものを食べてないのですぐさま食料を調達しに出かける。商店で水を買い、どこかレストランを知らないかと尋ねるとすぐ近くのサンドウィッチ屋に連れていってくれた。

フランスパンに卵焼きとチーズをはさんだだけのものだが、今なら何でも美味い。

案内してくれた男といつものように話しこむアゲロス。ああ、まただ。またです。彼は一旦誰かと話し込み始めると、自分の持ち物をすぐになくす、もしくは置き忘れる習性があるのだが、今回もまた、さっき買ったばかりの水をサンドウィッチ屋に忘れている。わざと黙っていると、しばらくして

「オレの水はどこだ。」

どこだ。って何だよ。初めはおっちょこちょっちょっちょいだなもーうと笑っていられたが、あまりにも頻繁に起こりすぎるのでわざと黙っていたり簡単にイラっとしてしまう自分の大人気なさよ。

だって、ねえ?

二人旅って時々とてつもなく面倒くさい

翌日はこれから向かう国々のビザ取りに奔走。インターネットで情報収集。その間一人で近くをうろついてくると出かけていったまま帰ってこないアゲロスを待っていると、土産物屋の男に声をかけられる。

アゲロスが喋るばかりなのでフランス語が一向に上達しないボクは、英語の話せる相手に少し喜び、うっかりちゃっかりと土産物屋に足を運ぶ。特に欲しいものはなかったのだが、ふと手にとったアフリカンデザインのセットアップの服が日本でパジャマにするのにもってこいの素敵な様相だったので、ついいくら?ときいてしまう。

「これはいける。」と思ったのか店の男は「普段はあ10000だけどー、マイフレンドプライスで8000でいいよ!」8000ウギア。およそ、3000円。はっ!アホか!「じゃあいくら?」うーん、3000かな。「じゃあ6000で!」

するとアゲロスが戻ってきていた。「道に迷った。」人のことを言えたものではないが、このオッチャンも相当な方向音痴らしい。

では気を取り直して大使館へ向かおう、とすると「よーし3000でいいから!ほらこれいいデザインだろ!?はい3000!」ちょちょちょまてよー、またあとでくるから!と立ち去ろうとするもかなりのしつこさで攻めてくるので、買っちゃった。

およそ1000円。だけど、デザイン好きだし、西アフリカの旅の目的の一つは、アフリカンデザインの服を買い込むことだし、その先駆けということで、よしとしよう。

タクシーでマリ大使館まで向かい、申請。ボクは一ヶ月のシングルビザ、アゲロスは二ヶ月のダブルビザを。が、お金が足りないアゲロス。16時の受け取りの時に払います、とお願いして立ち去る。

コートジボワール、ブルキナファソ、トーゴ、ベニン、ニジェールの五カ国のビザがセットになったお得な五カ国共通ビザというのが存在するので、もしここヌアクショットでも取れるならもうとっちゃおう、ということでマリ大使館の人にきくと、どうやらフランス大使館で取れるらしいので、両替に行くついでに立ち寄ってみる。

「14時半にまたきてね。」現在14時。それまでフランス大使館に隣接されているカルチャーセンターで時間をつぶしてみることに。こちらで働いている駐在員のフランス人達がたむろしていて、清潔で美味しそうなレストランがあったのでタマゴサンドを注文してみる。

ゲ、ゲ、ゲロウマ・・・。地元の食堂も好きだが、こういう外国人向けのちょっと高いレストランも好きなんです。

誰にでもすぐ話しかけちゃうアゲロスは、通りがかったフランス人の女の子をつかまえて、「オレはミュージシャンで、トラディッショナルなミュージックがききたくて・・・」と色々質問を浴びせる。

そして30分が経過。ええと、僕達は、16時までに両替を済ませてマリ大使館に戻らなければならないんですよね?それからフランス大使館でビザのことも聞かなければならないんですよね?

いつまでたっても終わりそうにないおしゃべりにイライラし始める。フランス語が分からない自分にイライラし始める。時々気にかけて「彼はフランス語分からないんだけど、ジャミで、日本人で・・・」と話をふってくれるアゲロスの好意にすらイライラし始める。普段なら、すぐにノートとペンを持ってこれは何て言うんだ?と質問するのだが、何故だろう何故かしら、アゲロスには教わりたくないもんねふん、と思ってしまう。末っ子丸出しだ。天邪鬼だ。

ようやく女の子が立ち上がり、終了。大使館に戻り五カ国共通ビザは翌日発行で60ユーロ、と教えてもらい、タクシーで両替屋へ。なのにアゲロスは、自分のビデオカメラをみせながら「このバッテリー売ってる店知らない?」みたいなことを道行く人に尋ねている。時間があまりないんです。

いい加減腹が立ったので、バッテリー探すんとか後でええやん。と言うと「違うよ、さっき見つけたレートのいい両替屋がこのバッテリー売ってた店の隣だったんだよ。誰も今バッテリーなんか買おうとしてないよ。」と。それは失礼。

結局アゲロスがみつけた所とは違うが割と良いレートの両替屋で50ユーロを替える。19500ウギアに。

数えると、1000ウギア多い20500ウギアあるじゃありませんか!ひゃっほーい!ラッキー。嬉しいので店を出たあとすぐさま、うひひ、1000ウギア多くもらっちゃったーとアゲロスに伝えると、「え!ほんとに!?ちゃんと数えた?」うん二回数えた。ラッキー。

「 返しな!あの両替屋は悪い奴じゃなかったろ?返しに行こう。」何でや!ラッキーやったんや!「だめだめ!それはいかんで。」

渋々返しに戻ると、両替屋のおっちゃんは大層喜んでくれた。それから、「すまんなジャミ、オレはなんていうか真っ直ぐな人間なんだ。」ちきしょう、と思いつつも、アゲロスが正しいのでボクも謝る。ややスネ気味に。「あとでまたじっくり話そうこのことは。」と言ってきたがいいえ結構ですもう分かりましたので。と返す。スネ気味に。

情けな〜。うひゃうひゃはしゃいで報告した自分がアホみたいじゃないか。でも、ボクはこう見えて(どう見えて)そこまで真っ直ぐな人間じゃない。お釣りが多かったらラッキー、百円拾ったらラッキー、と自分のポケットに入れる人間なのだ。

盗みや詐欺は許せないと思っていても、こういう自分に都合の好いのはラッキーだと受け止める。善悪の価値観は人それぞれ。だから犯罪が後を絶たないのだろう。

でも、やっぱり、いくらそれが正しくないとは分かっていても、次またお釣りが多いようなことがあったら、ボクは素直にそれを返せるだろうか。多分、ラッキーだと思うだろう。

だって、この1000ウギアの差で後々、正直者が馬鹿を見る目にあうんだから。

無事マリビザを取得し、宿に帰る。そこで宿代を再び交渉すべく、モハメッドとおしゃべりをする。4500を4000にしてくれとアゲロス。彼の交渉はあくまで笑顔で楽しく、最終的には円くおさまるやり方なので好きだ。

1000ウギア札を4枚テーブルの上において「お願い!」と頼む。「無理だよ〜。」そしてボクも混ざり1000ウギア札2枚を取り2000ウギア札に替え、「これでどうだ!」と頼む。どうだもくそも、結局額かわってないやん、というニュアンスでやったのだが、特に効果を発揮せず。「無理〜」とモハメッド。

するとアゲロスが「OKOK。」と言うので、あなんだ、もうあきらめて4500でいいってことなのか、と思い、1000ウギア札を一枚足して5000ウギア渡す。

お釣りをもらって部屋に帰るなり「何なに何だったんだあれは?何がしたかったの?」とアゲロス。は?OKって言うたからもうええんかと思って渡したんやん。「ノー!オレは4000に交渉できたんだ!なのにジャミが割って入ってよくわからないことするから、一体オレがいくら払ったのか訳分からなくなったじゃないか。」んなこと言われたって、ワシかて交渉に参戦しようとしただけやんか。

「オレはお金のことはまあどうでもいいんだよ。ただ、交渉して、楽しみたいだけなんだ。ついでに値段も下がるとラッキーだけどね。だからジャミが1000ウギア渡して終わらせちゃったから訳わかんなかったんだよ。」ああそうだったんですか。ごめん。

「いや、いいんだけど、1000と2000を取り替えたあたりからよく分からなくなったから。とにかく、交渉のときはジャミはあまり喋らないほうがいいかもね。」

ふん。ほぼ大体向こうが正論なので、和解したが、じゃあオレって一体何だ?アゲロスについて回るだけしか能のないオマケみたいじゃないか。

ふと一人旅に戻りたくなる。フランス語だって、アゲロスといるとほとんど喋らずにすむせいで伸びない。などと、自分の愚かさをなすりつけて一人で黒い感情を腹に溜め込む私ジャミラ。

二倍生きているだけあって、アゲロスのほうがだーいぶ大人だな。

そんな風なことを思っているのを悟られたのかどうなんだか、その後夜の町を歩いているときも、時々「先行っててくれよ。」とか、「バナナ買うの?だったらちょっと向こう側みてくるから」とボクに単独行動をさせようとしてくる。

単独行動云々ではなくて、「ジャミめ仕方ねえ野郎だなー。」的に、保護者的に見られていること自体になんだかむっとして、同時に情けなくなる。

それから道を尋ねるがてら立ち寄った店のオッチャン達と喋り、セネガル行きのバスのことやなんかもきいたりする。唯一武器になりうる、ボクがアラビア語を少し話せるということも、アゲロスのフランス語には及ばないので結局ほとんどアゲロスが喋る。

一人の時は、言葉なんか通じなくてもおしゃべりできてたのに、アゲロスといると、全部もってっちゃうからオレ、何もできないや。

あーーーーーーーー。めんどくさ。

これだから末っ子は困る。自分が自分がだから。本来色々手助けしてもらって感謝すべきなのに、自分に関係なく物事が進み、そちらへオマケのように運ばれると、スネるのだ。

イラつくけど、めんどくさいけどやっぱり頼りになる存在

夜中、部屋にムスリムの男が侵入してきた。お金をスろうとしている。咄嗟に気づきそれを防ぐ。と今度はムスリムの女がボクの顔面に枕を押し付けて金品を奪おうとしてきたのでそいつの腹を思い切り蹴飛ばそうと右足をめり込ませる!

ガシャーン!

え!?何なになにごと!?い、痛ー!

悪夢を見て、女を蹴飛ばそうとして本当に隣で寝ていたアゲロスのベッドを蹴飛ばしてしまったらしい。時々こういうことが起こります。

翌朝、オレなんか夜中うるさくなかった?ときいてみると「うん。物凄い勢いでベッド蹴飛ばしてきた。」ごめん!世にも恐ろしい夢みちゃったんです。「ははは。俺はいい夢みたよ。」

それはそうと、ボクのモーリタニアビザは今日で切れる。延長してもう少し滞在し、五カ国共通ビザをここでとってしまってビザ問題をクリアしておけば、これから行く先でビザにふりまわされなくてすむ。が、その延長料金が高いのならやめよう。と昨夜話し合っていたので、早速イミグレーションオフィスへ向かってみる。

このオフィスの場所も、アゲロスがきいてきてくれたのだ。自分一人だともっと苦労していたに違いない。

到着して、料金をきくと、五ヶ月延長で5000ウギア。およそ1700円。微妙に高い。「ほんの三日間ぐらいのでいいから、もうちょっと安くなりません?」とアゲロスがきいてくれるが、愛想のあまりよくない事務員は、断固5000と譲らない。

譲らないも何も、こういう公的な料金は通常そう簡単にゆるぐものではないのだろうけれど。

やっぱりちょっと高い!と言うと「じゃあもう今日出国しよう!」とアゲロス。そうと決まればとっととヅラかろうぜ!

帰りに郵便局で荷物を送る時も、アゲロスが「ダンボールか何かくださいませんか」ときいてくれたおかげで買わずに手に入った。やっぱりありがたい。

「バッテリー買ってくる」とアゲロスはそのまま町へでかけ、僕は一足先に帰ってアゲロスの三倍近くある荷物をまとめ、ホームページの更新などをする。

アゲロスが戻ってきた時気づけばもう14時で、慌てて出発。

したいのに。昨夜買ったスイカ丸ごと一個を今食べ始めるオッサン約一名。おい。と思いつつもあせらないせかさない。一休さんを見習う。

タクシーでガラージュロッソという、モーリタニア〜セネガル間の国境の町ロッソへ向かう乗り合いタクシー乗り場へ向かう。

到着するなり「ロッソか!?ロッソだな!?はいこっちこっち!」「こっちじゃー!」どっと押し寄せるむさくるしい客引きの男達。

あうあうあー。一人あたり1500ウギアときいていたので、「一人3000!」と叫び散らす連中を相手に「1500じゃー!」と返していると、ひっそり寄ってきた男が「オーケー一人1500二人で3000な。行こう。」と。成立ー。そしてその男のタクシーに乗り込むと、「ちょっと待ってやっぱあっちにしよう!」とアゲロス。

何も言わないまま戻っていくので、僕も折角積んだバックパックを背負いなおし、戻る。何があかんのんや?安かったやん!「なんか怪しいんだよ。たった二人の乗客で3000で行ってくれると思うか普通?窓ガラスも全面スモークはってるし、もしあのまま出発したら中で何されるか分からないだろ!?それより、こっちのぎゅうぎゅうづめでも家族とか皆乗ってるほうのが安全だよ!」

た、確かに。そう言われるとそうだ。何でもかんでも好き勝手に突き進む彼にはイライラさせられっぱなしだったが、今回はまさしく彼の推測が正しそうなので、なるほどー!と納得してぎゅうぎゅうづめのほうへ乗り換える。

満員になるまで待たされ、16時半ごろようやく、子供二人に大人九人と大量の荷物を載せた乗用車は出発した。

車中でもすぐに人々に話しかけ、仲良くなるアゲロス。ひねくれ者のボクは、あえてそこに混ざらないようにジャミポッドを聞く。何度も何度もポリスチェックだのなんだのと停車しつつ走る。

身動きがとれずケツが軋む。陽が沈む。月のように黄色く沈む。こんな夕陽見たことあったっけ。などと思っているうちに辺りは暗くなり、ついにロッソの町へ到着。

降りるなり、「タクシー!?」「ボンソワール!?」とたかってくる謎の黒い物体。「ジャミ!こっち!カムカム!」アゲロスに着いて歩くと、国境。ボートで川を渡るとそこはセネガルという仕組み。

が、今日はもう夜遅く、セネガルに着いたところで当ても無いので、ここに留まろう。がしかし、ボクのビザは今日で切れる。船着場にいた警察にアゲロスがきいてくれる、「問題ないぜ」と警察のおっちゃん。

その間もたかってくる謎の黒い物体の中から、英語で話しかけてくる男あり。名はモハメドアリ。「すぐそこに一人2000の宿あるから泊まりな。ここらへんの連中は危ないから気をつけるんだぜ。明日朝7時にオレもセネガルいくから一緒に行こう。そんじゃお休み。」颯爽と現れてささっと消えていったモハメドアリ。ありがとう。

レストランの二階の部屋を宿として貸しているそこの主人はシリア人で、とても優しそうなおっちゃん。ここでもアゲロスが交渉。もうボクは何も口出ししないことにしていると、4000ウギアで、レストランのチキンを付けてもらえることになった。やった。

チキンをいただきながら、お金の相談をする。アゲロスはウギアを使い切っていたのでボクが貸している。ボクの手持ちは残り2100ウギア。だが、明日の出国の際に一人1000ウギアと、ボート代300ウギア、合計2600ウギア必要らしいのだ。どうする。500ウギア足りないじゃないか。

そして今、物凄く喉が渇いているじゃないか。コーラが飲みたいじゃないか。

「10ユーロはあるんだよ。」え、じゃあてことは手持ちの現金そんだけってこと!?「いやいや、前も話したように、全部で現金600ユーロはあるけど、額面が大きいから今ここで両替するわけにはいかないってこと。」などと話す。

ちきしょう飲みてえよコーラ・・・大体アゲロスがもうちょっと考えて自分の手持ちのウギア管理しとればわしが貸すことも、今こうしてコーラを我慢することもないんやんか・・・というか!あの両替のラッキー1000ウギアを持ってれば、何ひとつ問題なく現状を打破できとるんやんか。正直者が馬鹿みてるよ今・・・・

またしても黒い感情を腹に。結局、ボート代はボクが既にエジプトで入手していたセネガル側の通貨セファでどうにかなるだろう、という結論に達し、じゃあコーラ飲んでもいいよね。と喜び勇んで購入。100ウギア。

幸せな喉ごしと共に黒い感情も流れ去った。

さようならモーリタニア

今日もまた悪夢を。親友に現金を奪われる夢をみた。よっぽど気を張っているのだろうアフリカに入ってから。

気を張って、蚊帳も張って寝ていたのにどこからか、蚊なのかベッドバグなのか分からないがとにかく何者かが侵入して僕の足のありとあらゆる部分を襲ってきて、さらにクーラーがあるのはいいがまったく局部的にしか冷えず結果暑く、ほとんど眠れないまま朝を迎えた。

の、喉がかわいた・・・残っていた少量の水も昨夜のうちに二人で飲み干してしまい、手持ちのウギアは残り2000。丁度出国税の分なので使えない。

荷造りをすませ、少しだけ朝の町を歩く。おびただしいゴミの量。写真をとりながら歩く。すると「蚊帳ない?」と店で尋ね始めたアゲロス。昨夜彼は蚊帳を持っていなかったので随分辛い思いをしたのだ。

それはそうと、キミ金ないだろ?なんでなのに蚊帳探して値段きいたりするの?と朝からまた少しイラっとしてしまう。

が、10ユーロを使って蚊帳を購入しちゃった。お釣りをウギアでもらったので、もう彼に貸す必要はなくなった。

水が買える!!!

二人して水をがぶ飲みし、いざ国境へ。出国税1000ウギアを払う。アゲロスは、くずしておいた細かいウギアを600ほど渡し、「これしかないんだ!頼むぜおい〜オレはギリシャ人で、ミュージシャンで・・・・」と話しはじめ、結局600でオッケーにさせてしまった。なんという図々しさを超えたテクニック!

おや?あれはもしや・・・

「こんにちは〜」久々耳にするなめらかな日本語。コニチワーではなくこんにちは。日本人だ!丁度セネガルを渡ってきたらしいその男性と少し喋り、お互い日本語久々きいたと喜び、情報を交換してボンボヤージュ。

タイからラオスに渡るメコン川とそっくりな川を、そっくりなボートで全くそっくらないアフリカ人運転のもと、渡る。セネガル待ってろこんちきしょ。


セネガル日記

モーリタニア(2009年9月25日〜28日)