ギョレメ行きだろうが

シリアを出国した途端ようやく見慣れかけていたアラビア語のうにょうにょした文字が消え、アルファベットにおまけがついたようなトルコ語表記が目についた。そして入国側のイミグレーション。

バスから一瞬降りてパスポートチェックかな、と思いきやそこでもう、すまし汁よりもあっさりと入国スタンプを押された。今までで一番あっさりしていたかもしれない。道端でポン、の勢いだもの。

そこから二時間程バスに揺られ15時すぎ、アンタクヤという町に到着。バス停でそのままカッパドキアはギョレメ村行きのチケットを40リラ(2400円!)で購入。「トルコゆうたら、カッパドキアとかあるやろ」とオカンをはじめ皆が口々に言っていたので。噂によると、なんだかにょきにょきしているらしい。

ところがそのバスが夜の22時発だもんで、都合7時間ここで待たなければいけない。この、危うい肛門様とともに。いい加減何か食物を口にしないと倒れそうな予感がしたので、ビスケットを1リラ(約60円)で買い、ゆっくりと噛み締める。

食後速やかにトイレへ。またしても有料。しかも50クルシュ!(1リラの半分だから30円)

敬愛する中谷美紀のインド旅行記を読んだりなどして時間をつぶすも、悪霊に祟られたこの体で7時間はさすがに苦しい。おまけにこの固いベンチ。

結局22時までの間に三度もトイレを利用し、1.5リラも使ってしまったおかげで、その日の日記にはこう殴り書きされていた。「もう腹むかつく!」己の腹に腹を立てる人が果たしてこの世にどれぐらいいるのだろうか。

22時、ようやくバスに乗り、出発。シリアで水がもらえるだけでも嬉しかったのに、なんとトルコのバスではティーやジュース、コーヒーが支給されるではないか。でも、肛門様を心配して思い切り飲めない。

早朝4時半、不貞寝をしていると起こされ、バスを降ろされる。ジェスチャーを交えた会話によると、ここはアクサライという町で、このターミナルでバスを乗り換えるようだ。

しかし寒い!急いで上着を取り出し、布をぐるぐる巻きにして座っていると、果物屋の男が店の中で待ってな、と椅子をよこしてくれた。英語が全く通じないので雰囲気で会話していると、「どこに行くんだ?」ときかれたのでチケットを見せる。

鼻で笑われた。そしてさっき乗ってきたバス会社の人間だかわからないが、おっちゃんが現れ、ごそごそと二人で話す。鼻で笑う。「ギョレメ行きだってさ。ふふっ。」そして僕に説明する。トルコ語で。「ギョレメ行き直通のバスはないよ。だからこのチケットはもう捨てて、別で15リラ払って買わなきゃだめだ」といったニュアンスのことを。

あ〜ん!?なんでや!わしゃギョレメ行きのチケットこうて40も払っとんじゃ!これ以上はらわんで!と英語で言い張るも、「いや、買うっきゃないよあんちゃん。」的なことを言ってくる。畜生め。

しばらくするとそのおっちゃんに、「こっちきな、バス来るから。」と連れていかれる。道路に。「ここで待ってな。バス来るから。」路上じゃん・・・。

同じくバスを拾おうと待っていた別の男に僕のことを説明するおっちゃん。「こいつギョレメ行きのチケットもってんだけどさ、ないじゃん?そんなの。とりあえず方向一緒だろ?頼むよ。」「おいおいギョレメ行きなんて、ないのにね!ふふ」

さっきから軽く笑われるこの感じ、非常にイラっとする。バス会社で「ギョレメ行きですね?40リラです」と言われ購入しただけなのに。畜生あのバス会社。

するとおっちゃんが「はい、バスきたらこれ渡しな。じゃあ達者でな。」と僕に10リラをくれた。え?何故?よくわからないが、おっちゃんありがとう!一気に機嫌を直す。

15分ほどでバスが通りがかり、乗り込む。時刻は6時。東に向かって走るバス。丁度陽が登る瞬間で、ネスカフェのコーヒーを飲みながらの朝陽は疲れた体にとっても染みた。

小一時間後、ようやくギョレメ着か!とバスを降りるとネヴェシェヒールという町だった。ええ加減にせい。すかさずツアー会社の客引きがやってきて「ギョレメ行くんだろ!?こっちこっち!」とオフィスに連れていかれる。

「ツアー組む予定はあるの?カッパドキアは大きいからね、ツアーで回ったほうがいいよ!どうする?グリーンツアー、レッドツアー、色々あるけどどれにする?」ちょっと待った。まだギョレメにも着いてないし、なにより移動移動で疲れてツアーのことなんか考えられる余裕今ないから、またあとで。

とスタッフの口撃を遮ると、「ギョレメでツアー組むとここより少し高いよ!こっちで予約しといたほうがいいって!どうする?明日予約する?」だから、疲れてるんです!「オレだって疲れてるんだよ!」

え?

とっても腑に落ちない返しが突如やってきたので驚いたが、ともかく、まだ今はツアーを組まない旨を冷静かつ沈着に伝えると、スタッフも分かってくれた。

ドリームケイヴという宿へ行くつもりだと言うと、どうやらこのツアー会社と何やら関係のあった宿らしく、無料で連れていってくれることになり、ようやく、ついに、ギョレメへ。

ギョギョ!!

ギョレメに差し掛かった途端、街並みに「あどうもー」とごく自然に溶け込んだ異様な、ニョキニョキした岩が現れた。これが噂のニョキニョキ、奇岩か。奇岩という日本語の響きがやけに好きだ。キガン!おおどろおどろしい感じがしてベリグッド。

日本人のおばちゃんのパワフルさ


近くのスーパー でインスタントのトマトスープとパンを買って、宿で食べる。久々に食事らしい食事をとってほっとしたところで、ベッドに倒れこみ爆睡。

よほど疲れていたらしく、疲れの濃さ及び眠りの濃さとよだれの濃さは比例するというデータをもとにすると、それはそれは濃いものだった。

昼過ぎに起床し、下痢も首の痛みもかなりおさまり無事復活したようなので、散策へ。

歩いて700メートル程のギョレメパノラマという景色の良いポイントへ向かう。しかし何なんだこの村は。ムーミンやバーバパパの類の妖怪だか妖精が生息していても「あどうもー」とごく自然に挨拶を交わしてしまいそうな雰囲気。不思議だ。にょきにょきだ。

パノラマポイントへ着いてパシャパシャと撮影をしていると、丁度日本人の団体ツアー客がいて、おじさんと喋る。「そうかそれじゃあ一人で色んな所を回ってるのか。いいよ、若いうちに色んなものを見ておいたほうがいい。数十年後じゃもう世界遺産も環境破壊だなんだで見れなくなってしまうかもしれないからね。」

するとおばちゃんがどこからともなく現れて、あれこれと尋ねてくる。「何じゃああんたオーストラリアから流れてきちゃったんだ。そいでお金なんかはどーしてんの!」自分の貯蓄を削っております。「ほんとー?もうお母さん心配してんでしょはいおばちゃん写真とったげる。パシャ!はい住所教えなさいおばちゃんお母さんに写真送ってお宅の息子さんは元気でしたって安心さしたげるから!あらやだバス出ちゃう早く乗んなさい日本帰るわよ!」

この押しの強さ。おばちゃんが角界にデビューしたら関脇あたりにいきなり踊り出られるんじゃなかろうか。久々日本人のおばちゃんと接触したので、新鮮味を覚えた。

村に戻ってさらに散策していると、小雨が降りはじめた。思えばエジプト上陸以来、一滴たりとも雨に降られたことがなかったので、これまた新鮮味を覚え、野菜やパスタ、チェリーを買って宿に帰る。

チェリー1キロ2リラ(120円)ててあなた。安い。

今朝買ったトマトスープの粉末を利用してトマトスープスパを作ってみる。うむ。なかなか見栄えのよい出来。いただきます。

うふっ

こんなパスタが出てきたら、そのレストラン2秒でつぶれます。と自分でも驚くほど不味かった。不味くなる要素なんてどこにもなかったはずなのに、酷い出来だったので、どうにか野菜だけ食べて、申し訳ございませんと謝りながら残った麺を闇に葬った。

それでもかなりの量を食べていたので、せっかく復活したはずの体をまたしても気持ち悪い状態に戻してしまい、夜はパンとポテチをかじるにとどめた。チェリーは死ぬほどうまい。

無料でこれは楽しすぎるドラクエの旅

翌朝もトマトスープとパン、チェリーとコーヒーでゆったりとブレックファーストをいただき、ギョレメから3キロほどの距離にあるウチヒサールという町へ歩いて向かう。

ジャミポッドを歌いながら歩く。やはり楽しいこの瞬間。丘の上に城塞があり、そのまわりにお洒落なペンションや民家が建ち並ぶ。ギョレメもかなり良い雰囲気だったが、ここウチヒサールはそれをさらに上回る雰囲気の良さ。時折通りすがる人々に挨拶をしながら登ってゆくと、頂上の城塞入り口に到着。入場料の類を払うのはかなり嫌いな人間だが、ここはたったの3リラ(180円)だったので入城。頂ます。

てっぺんに登りつめた男。下界を見下ろすと可愛らしい家々や、遠くにギョレメのにょきにょき。風が心地良い。

そこにトルコの国旗がたっていたので、これは、やるっきゃないよね、とデジカメをセルフタイマーでセットし、その国旗によじ登る。そう、一度はやりたかった「マリオがゴールした時のあれ」。ジャンプ力がなかったので得点としてはかなり低かったが、気分はすっかりスーパージャミラ。

のんびりとギョレメに帰り、またしても激安のチェリーと巨大なパンを買って昼食をとる。なんとのどかな一日。

そして エジプトのダハブで刈ってから伸ばしっぱなしだった髪を刈りあげるべく、一人バリカンで断髪式。3ミリで。「い、いいじゃん・・・」まるで自慢のジョーヘアを断髪した時の井沢ひろみの心境でなかなかの出来具合に満足し、仕上げに後頭部をチェックする。

川の字じゃん・・・

お洒落に剃り込みを入れたとは言いがたいミステイクの剃り込み三本。ミステイクっぷりまで井沢ひろみです。(念のため注意書き。井沢ひろみのくだりについては行け!稲中卓球部をご覧ください)

気を取り直し、同じ部屋に泊まっている日本人のノブさんにバックギャモンという、中東界隈で広く知れ渡っているオセロのようなすごろくのようなゲームを教えてもらう。勝てない。

夕方18時、ローズバレーというこれまた絶景の広がるスポットに行ってみようと二人で向かう。村を外れ少し歩くとすぐさま目に飛び込んできたにょきにょきのうじゃうじゃのバレー!す、ステキ!!

全く何の期待もしていなかったうえに入場料など一切かからないので、かなりずきゅんときてしまった。にょきにょきの合間を突き進む。まるでドラクエ。ドラクエやったらこういう所で不意にモンスターが出てくるんでしょうね〜。大変やなあ〜勇者は!既に冒険家気取り。

そんなにょきにょきの所々に、窓枠やドアがあったりする。かつて人が住もうと試みたあとなのだろうが、それにしてもどうしたらあんな高い位置に窓を作れるのだ?そしてどれぐらい昔の話なのだ?湧き出る疑問を互いにぶつぶつとつぶやきながらさらに突き進んでいると、本当に現れた。モンスターが。

きょ、きょ、巨根岩!!!

形こそいびつなれどその巨大さたるやワールドクラス・・・「羽賀研二もこんぐらいなのかな」とノブさんが素朴な疑問を口にしたが、いやいや羽賀研二なんてこれに比べりゃ稚魚でしょう!となると僕達って一体・・・悔しいので遠近法をもってして、その巨根を我が物にしたようなポーズで撮影。わっはっは。

I'm huge

ひと時の優越感(誰に対する)を味わって、「Rose Valley→」と時々現れる矢印をたよりに奥へ奥へと進む。いやあ、色々と見て回ってきたが、このローズバレーの冒険はかなり上位に食い込む楽しさだ。なんてったって無料。僕が今世界ふしぎ発見か何かのレポーターだったらこの楽しさを上手に伝えられる自信がある。しかし依頼がない。

トンネルのようになった岩の下をくぐりぬけたりしていよいよローズバレーか!?と動画片手に興奮気味に走ったりするが、なかなかゴールがみえない。ジラすねローズバレー。こりゃ相当な代物だよ。こんだけジラすってことは。だってこの道中だけでもかなり素晴らしい景色なんだもの。

今度こそ・・・来たか!?と開けた場所に踊り出ると、そこに西洋人の団体が住まっていた。な、なんだこいつら、これがあれか?ロハスな暮らしぶりをアピールする輩か!?

さらにその先には教会やカフェテリアまで存在していて少し萎えた。ここまでほったらかしにしておいて、冒険気分をそそっておきながらゴール目前でこんなの見たくなかったぜ・・・とすっかり勇者になりきった僕。

そしてついに・・・あら?えーと、こ、これ?それともあのあちらの?ここに来るまでほとんど見かけなかった人間という生き物が、沢山押し寄せているではないか。ということは、ここがゴール、ローズバレーか。ここ一体をローズバレーというらしい。尻すぼみというわけではないが、道中が楽しすぎたせいで、少し拍子抜けしてしまう。

おまけにツアーで来たという家族連れの日本人に本気でチベット人と間違えられる。「日本語喋ってんじゃん!ちょっと今この人何て言ったと思いますー?チベット人だとか言ってたんですよ!」と娘に責められながら「すいません!すいません!」と謝る母親。あ、よく間違われるから大丈夫ですよー。と僕。

しかしそんなこんなを差し引いてもかなり美しい眺め。さらに時刻は20時。丁度陽が沈み始めた。さようなら今日。

ものの三分で沈みきった太陽。と同時に「はい下山です」と足早に立ち去る我々。ツアー客のように車なんてないものだから暗くなってしまうと時の迷い子になりかねないのだ。

「クロノトリガー最高だよね!あれはねあの当時かなり画期的だったんだよ!」とまだまだ冒険気分の抜け切らない我々。ノブさんに至ってはその当時画期的だったロールプレイングゲームを思い出して一人で鳥肌を立てる始末。そそないに興奮せんでも・・・いやでも確かにあれは最高に面白かった。

陽は沈んだが思ったほど暗くないなあなんてふと後ろを振り向くとドゥワ!!!!

でっかい満月!!!!

不意打ち感と、今しがたでっかい夕陽みたばっかりなのに!という、今カツ丼食べたばっかなのにもう親子丼!?に近い贅沢感が相まって、かなり興奮してしまった。

このにょきにょきの岩と満月、ドラゴンボールっぽいですよね。「まさにそうだね。」その昔、満月を見つめていると本当にゴリラだか猿だかに変身してしまうと思って警戒していた自分を思い出す。悟空さの影響だ。

だいぶ夜の帳が下りて遠くに見えるウチヒサールの町の夜景がキラキラと美しい。それを撮影すべく、木にカメラを固定して構えていると、ワサワサっと何か異様なシルエットが目に飛び込んだ。

ぎゃ!でっかい蜘蛛!

パーツパーツが太く、毛蟹のように産毛が生えている、巨大蜘蛛のイメージまんまの蜘蛛が現れてたじろぐ二人。おかげで夜景の写真は驚きのブレ具合。

ようやく車道近くまで戻ってきたころ、今度はワンワンっと何だか聞きなれた声が耳に飛び込んできた。

ぎゃーーーーー!でっかい犬!!!二匹!!!

野放しの飼い犬が怪しい東洋人を主人宅に寄り付かせないように襲い掛かってきたらしい。パトラッシュぐらいはあろうかというほど巨大な犬に恐怖を覚えた二人は、半ばパニックで逃げる。

が、どこかで聞いた。こういう時驚いて走ってしまっては余計追いかけてくるからダメなのだと。冷静に判断した僕は「走ったらダメです!走ったらあきません!」とノブさんにアドバイス。

アドバイスしながらもノブさんが後方に遠ざかってゆくのはなぜ?

理性ではこうと分かっていても、本能がともかく逃げよう、と僕を突き動かし、「走ったらあきませーん!」と叫びながら物凄い勢いで走っていたらしい。

「ジャミラが走ったらダメっていうからあ、そうなんだ、じゃあ歩こうと思ったらさものっそ走ってったよね自分。」

やれ勇者だ冒険だの戦闘だのと熱く語っておきながら、いざ襲われるとこのざま。しかも相手はモンスターでもなんでもない、犬。情けない。生身になると一番弱いのはやっぱり人間なんですよねー。と犬から逃れようやく心拍数が落ち着いてきた頃自分の弱さを人間全体の責任みたいに喋っていたのは何を隠そう僕です。

ああ、生きているって素晴らしい。

世界遺産の街サフランボル

三泊ほど過ごした冒険の猛犬の街カッパドキアを離れ、バスを乗り継いでたどり着いたのは、築100〜200年という古い建物に今も人々が暮らし続ける旧市街全体が世界遺産というサフランボル。カッパドキアからの流れでノブさんと共に。

夕方、サフランボルの新市街クランキョイから旧市街チャルシュまでさらに市内バスに乗りようやく到着。宿を探していると広場にいた警察官に「ちょっとこっちへ来なさい。」と呼ばれる。

不法入国者に関する職務質問の類かしら

「宿を探しているのか?よし、電話してやろう!」と手際よく携帯電話をピッポッペ。「迎えにきてくれるからここで待っとき」あ、ありがとう!何じゃこりゃ到着早々手厚い親切。

「日本人の方ですか〜?」上手な日本語で話しかけてきたのはエフェゲストハウスを夫婦で経営しているジャスミンさん。なるほど某旅行人というガイドブックに書いてあった日本語の上手な女性というのはこの方のことか。確かそこには、「全盛期の宮沢りえに似ている」という特に重要でない情報も載せられていたが・・・どうだろう。似て、いない。

そしてあれこれ話しているとジャスミンさんが唐突に「ミヤザワリエ。」と発した。色んな旅行者にそう言われるから覚えてしまったのかはたまた自覚症状ありなのか。とりあえず当たり障りのない「あはは!本に載ってましたヨー!」というリアクション。

荷物を置くなり早速散策へ。世界遺産になるだけのことはあって、古いけれども壁を塗り替えたりして今も元気に住まわれている家々が並び、風情たっぷりだ。盆地のような場所なので、凸凹の凹の部分に街ができている感じ。

土産物屋が並ぶ少し賑わった通りをあえて避けて人通りの少ない路地を「オレって小路マニアなんだよね」。僕も路地裏とか大好きですー。と意気投合し突き進む。ん?こみちマニアってナニ?

かなりローカルな道をきてしまったらしく民家に突き当たり、門番よろしく家の前に静かに座っている老人に「メルハバー(ハロー)」と挨拶をすると、「あっちや。こっちちゃう。」と静かにジェスチャーで追い返された。さらに奥から犬がガウガウと吠えてきた。昨日の今日でトラウマ再発しそうだったので、速やかに退去。

そういえば朝から移動ばかりでろくでもないものを食べているので、あ、いえ、ろくなものを食べていないので空腹がピークに達していた。ロカンタという安食堂を探して、適当なところで入る。

家族で経営しているらしいロカンタで、おばちゃんと娘三人が愛想よくむかえてくれた。メニューをみてもちんぷんかんぷんでんぷん状態なので、既に三週間近くトルコに居て若干トルコ語の分かるノブさんに教えてもらいキョフテというハンバーグのようなものと、オクラと牛肉を煮込んだスープを頼む。

エキメキ(パン)は無料で食べ放題とのことで、それらのおかずとともにドカ食い。久々に肉を口にしたのでかなりのウマさであった。世界三大料理の一つがトルコ料理なのに、これまでまだ自炊しかしていなかったのだ。なんという。

しかしトルコ語はさっぱりだ。せっかくアラビア語に慣れてきて、簡単な会話ならタンゴ単語でいけるクチ、までなっていたのに一から出直し。が、 トルコには一週間しか居られないのでもう一切の向上心をシャットアウト。覚えたのはメルハバのみ。

宿に帰り、屋上のテラスでワイヤレスインターネットをしていると、ジャスミンさんの二歳になる息子エフェがやってきた。子供は好きな性質なので早速遊ぼうと近寄ると、あからさまに怪訝な、というよりもむしろ不機嫌な顔をして「あぁあぁ!!」と拒絶された。えなんで?ノブさんは普通にお触りしてるのに。何だこの敵意むき出しの二歳児は・・・。

子供には割と人気があると自負していたものだから、エフェの態度に素直に傷ついた。なんでやのん・・・子供にしかみえない邪悪な気配でも漂ってるの?オレ。

ジャミラ嫌いなエフェと豚嫌いなキッズ

朝食付きの宿だったので、パンとチーズ、トマトにキュウリ、ゆで卵にオリーブをぺろりといただく。ノブさんは卵が嫌いだというので二個食べる。卵嫌いって珍しいですね。「生卵はイケるんだけどね。」ますます珍しいですね。「いやトラウマというかさ・・・昔ゆで卵食べてたら姉貴に突然、何そんな不味いもん食べてんの?て言われてさ、そしたらなんかその瞬間ゲロっちゃって・・・それ以来だめなんだよね。でも翌日姉貴ゆで卵ばくばく食べてたんだよね・・・」哀れすぎるエピソードに朝からほろりとしそうになった。

街全体が一望できるというポイントまで歩いて向かい、2.5リラ(150円)の入場料を払う。入場するともれなく紅茶か冷たいドリンク、もしくはサフランボル特産のサフランティーをいただけるそうだ。なかなか素敵なシステムじゃないか。 ここは特産サフランティーといきたいところだが日中の日差しは尋常でなく暑いので迷わずコーラをがぶ飲み。

素敵なパノラマビューをひとしきり撮影するととてつもなく眠気に襲われベンチに寝転ぶ。「のどかだなあ。」ほんとですよね。日本で働いとる人達に申し訳ない。というかこれを一度体験してもらいたい。

丁度パノラマビューの向かい側に、青空に赤々とはためく大きなトルコ国旗がみえたので、「行ってみようか、やってみようかマリオ」と向かう。

割と回り込んで登っていかないとたどり着けなさそうだったのだが、意外にもものの15分で到達してしまった。ので早速交代に写真を撮りあいながら国旗によじ登り高得点をめざす。

おまけに動画で旗に向かって走る部分から撮影。完全に自己満足の世界である。そう、己の満足感のためにここまでやってきたのだ。

気持ち良い具合に満足し、再び散策していると、路地裏の少年に出くわす。「こっちこっち!こっちきてー!」と路地裏の少年なのに陽気に呼び止められ、「カメラカメラ!」というので写真を撮ってやる。路地裏の少年なのに素直に喜んでいる。路地裏の少年なのに・・・しつこい?浜省

そしてデジカメにおさめられた写真をみせてやる。丁度オーストラリアの豚小屋で働いていたときの子豚の写真がでてきた時、可愛い〜!と喜ぶだろうと思いきや一同「げ!何あれ!やばい逃げろ!逃げろー!」

あ、イスラムの国だった

イスラム教では豚は不潔なものとされているのだ。にしてもこの驚きようには驚いた。エジプトでも何人かにはこの子豚の写真をみせたが何ともなかったのに。ここでもまた宗教の、人々に及ぼす大きな影響を垣間見た。

子豚可愛いのにな。

夜はまたロカンタでスープとインゲン豆を軽く煮たようなもの、エキメキを食べる。スープがどうやら、牛のホルモン系をふんだんに使ったものらしく、むやみやたらに酸っぱくていただけなかった。残さず食べたものの。

宿に帰ると例のエフェの誕生会をやるからテラスに来てとジャスミンさんに誘われる。そりゃあめでたい、今日誕生日なのですか?と尋ねると「いいえ、本当は5月19日だったんですけど、忙しくて今日になっちゃったんです。」

ちなみに本日7月10日。え、そんなに?そんなにばたばたしてたのこののどかな街のどこらへんで?

皆に囲まれ花火のついたバースデーケーキと共に歌を歌ってもらい上機嫌のエフェ。そろそろイケるんじゃない?と接触を試みようとした瞬間、「あぁああぁあ!!!!」きっと直訳すると「お前来んな!くそジャミラ!!」

ガン飛ばされてる・・・

悲しいを通り越してちょっと普通にイラっときて張り倒しそうになりましたが、相手は小さな小さな二歳児。僕はオトナ大人OTONA。接触を諦めオトナしく着席し、大人しくケーキとファンタをいただく。ファンタやあぁ〜。やっぱファンタ。ファンタは皆に平等にうまい。

結局エフェと僕の距離は縮まるどころかスタートラインにも立たされないままサフランボルを発った。結構本気でショックだったよ。

そんなに邪(YOKOSHIMA)ですか?

軽くイスタンブール

ノブさんと別れ夜行バスにて再び一人で向かうはイスタンブール。上陸する日本人の10人に3人がいまだに庄野真代の往年のヒットソングを口ずさむとにわかに噂されている、かどうかは知らないがイスタンブール。

早朝5時にバスターミナルに到着し、そこから地下鉄でアクサライという駅まで出て、さらにトラム(ちんちん電車みたいな)に乗り換えてスルタンアフメッドというところへ。宿の多く、観光スポットにも近い場所らしい。

オリエントハウスというユースホステルにチェックインし、大荷物を担いで歩いてきたので汗が生でダラダラ。シャワーを浴び、さて

就寝。

思っていたより疲れていたらしく、昼過ぎに起きる。適当にロカンタで飯をすませ、やたら存在感のある巨大なブルーモスクへ入ってみる。遠めに見るとドラクエの類に出てきそうな雰囲気。ちなみにトルコではモスクのことをジャーミーと呼ぶらしい。ジャーミー。ジャミ。ラ!これも何かの縁だね。

信者や観光客で賑わっているモスク内にはステンドグラスや細やかな装飾が一面に施され、あれだ、見るも美しく芸術的な様子だ。

丁度そのブルーモスクと向かい合ってこれまた大きな建物、アヤソフィアがあったので行こうとするも、入場料が20リラ(1200円)もするときき即座に退散。方位磁石を手にとりあえず南に向かって歩く。

海だ。

週末なのでトルコ人達が大挙して押し寄せては海に飛び込んだり、バーベキューを楽しんだりしている。それを横目に木陰で休憩。

ぐるりとまわって宿に帰り、ここでも飛んでいた大好物ワイヤレスを捕まえて屋上のレストランで長々とインターネット。

そろそろ違った味の食べ物が食べたくなり、本に載っていた中華料理屋めがけて夜のイスタンブールをさまよう。

えーとえーと、見つからない。 地図通りに忠実に歩いてきたはず。方向音痴だけど単独で行動するときはそれなりにしっかりいけるオレなはず。近くの地元民にきくも、分からない。

いただきまーす。結局チキンケバブとピラウ(ピラフ、というか米)、エキメキとサラダという見事なまでのトルコ料理を食べる。気分はしっかりすっかり中華スープと炒飯だったのに。お好み焼きを食べに行ったのに丁度定休日で、仕方がないから近くのラーメン屋で醤油ラーメンを食べるのって、嫌いじゃないのになんか嫌だよね。残念だよね。

紅音ほたるを楽しみにしてたのに再生してみたら紋舞らんだったって、嫌いじゃないのになんか嫌だよね。残念だよね。分かる人だけ分かってください。

無礼者、そしてさようなら

夜中、突如けたたましい「キャーーーーー!!ハハハハハ〜!!」という女どもの悲鳴のち笑い声が聞こえてきて目を覚ます。酔っ払っているのかなんだかしらないが、迷惑極まりない奴め。時計を見ると午前3時。すざけんな!一番起こされたら嫌な時間じゃないか。

と思いながらもそのままベッドに横たわっていると、何やら男の声がきこえてきた。「誰や!今の声は!今3時やぞ!?他の客のこと考えんかい!」誰かがたまらず文句を言いにいったらしい。女達はなにやらぼそぼそと受け答えしているようだが、男はしきりに「で誰や!誰やったんやあの叫び声は!」と責めている。

ざまあみさらせクソ女。眠いから、めんどくさいから、というのも確かにあった。だが、なかなかこういう場合にがつんと言えない僕にとって、その男の一撃は実に爽快なものだった。共に西洋人らしかったが、ともかくすっきりしたぜ。

時々こういった迷惑を考えない連中がいるのだ。

そんなこんなで9時前に起床し、屋上のレストランで朝食のフレンチトーストとコーヒーをいただきながら、朝っぱらからインターネット。もはやワイヤレスの虜。虜のワイヤレス。

宿をチェックアウトし荷物をあずけ、昨夜と同じロカンタで昼食をとる。ミートボールのトマト煮とエキメキで4リラ。手持ちの現金は残り4リラ。あと4リラで一日を過ごさなければいけない。

昼食に思わず4リラ使ってしまったことで、夕食が困ったことになってしまった。ちょっとがっつりおかずを食べたければ4リラまるまる使わなければいけないが、そうすると飲み物が買えない。飲み物を買うとなると、食事はサンドウィッチ等安いもので済まさなければならない。思い切って10ドルほど両替してしまえばこの悩みは解消されがっつり飲んで食べられる。だが、あと数時間のトルコ滞在にその10ドル両替はとってももったいない気がして・・・

ととっても小さく大きな悩みを抱えて街を散歩する。日差しが強いせいで喉が渇いてきた。スーパーマーケットに立ち寄ると美味しそうなリプトンのアイスティーが1.3リラで売られていたので思わず手にとる。が、冷えていない・・・それはいただけない・・・我慢して冷蔵庫に戻し、結局何も買わず宿に戻る。

19時前、いい加減喉が渇いてはりつきそうになったので、今一度外へ。海へ行く道すがら、さっきとは別のスーパーへ立ち寄ると、素敵な具合に冷えたリプトンを発見してしまった。

気がつくと僕はレジで1.3リラを払いがぶ飲みしていました。

この時点でさきほど悩んでいた三つの選択肢のうちの二つ目にすることを心に決める。両替はしまへん。残りの2.7リラで食事をすませるんや・・・

海辺に賑わう日曜の人々を尻目に、必死でリプトンを飲み干す東洋人。人は彼を、ジャミラ13と呼ぶとか呼ばないとか。呼ばない。

陽が沈んだ20時過ぎ、リプトン1リットルのおかげであまり腹のへっていない僕は、1.5リラのホットドッグを買って帰る。素晴らしい。1リラ余っちゃった。

そうこうしていると23時、空港行きシャトルバスの迎えがきたので出発。余った1リラで水を買う。きれいに使い切りました。

一時間弱でサビハ国際空港という、イスタンブールに二つあるうちの街から遠いほうの空港へ到着。サブ的な役割の空港だからてっきりこじんまりしたしょうもないものだと思っていたが、まだ新しいようで、実にきれいだ。某オーストラリアはメルボルンに二つあるうちの一つ、アヴァロン空港とは比べ物にならないほど規模も大きい。アヴァロン空港は・・・驚きのしょぼさです。

チェックインをしようと並んでいると、ずっと大人しくお座りしていた小型犬に吠えられる。何故?エフェといいこの小型犬といい。オレにそんなに邪悪な気を感じるのか君達は。自覚症状がないだけにショックは小さくないぞ。

ともあれチケットを受け取り、深夜2時、イミグレーションにて出国スタンプを押される。

たった一週間のトルコ滞在。特に巨大なハプニングもなく進んだのであった。 きっとハイライトはローズバレー帰りの野犬。


ドイツ日記

トルコ(2009年7月4日〜7月13日)