一体全体何が待ち受けているのかな

イミグレーションにて入国手続き。マラウイは観光目的なら30日間だか90日間だかはビザ不要なので、ビザ代がやたらにかさむアフリカを旅する身としては随分助かる。

空港から町の中心まではやや距離があるらしい。シャトルバスがあるとかなんとかきいていたのだが、どうやら今はなく、タクシーのみが運行していると。ちなみにタクシー大体おいくらぐらい?とイミグレーションの係官や両替所のオッチャン、警察にきいてみると皆口をそろえて「4500クワチャ。」と言う。

また訳のわからない通貨の登場だクワチャ。不覚にも事前に現地通貨のレートを調べるという、いつもなら怠らない検索作業をうっかり、飛行機に乗れるからと浮かれていたのかすっかり、忘れていたので正規のレートがさっぱり不明。とりあえずレートが悪いのを承知の上で100米ドルを両替する。

と1ドルあたり150クワチャのレートで替えられた。とすると、タクシー代の4500クワチャは・・・

眩暈を起こしてもいいですか

30ドル!!!???ええ、確かに知ってはいました聞いてはいました。日本政府の運営する海外安全情報ホームページにて、「マラウイは現在深刻な燃料不足のため、各交通機関に支障が出ています。」と12月10日付けでニュースが載せられていたから、きっと若干移動にお金かかるだろうなー、でもまあそんな馬鹿高いことはないだろうなーと。

馬鹿高いじゃない

ドライバー曰く町の中心部のボクが目指すオールドタウンと呼ばれる地区まではおよそ30キロほどだと。日本だとそりゃあそれだけの距離をタクシーで走れば何千円とかかるだろう。でもちょっと待った。ここはマラウイ。

大荷物を背負ったまま考える。バスは無いと。だがしばらく歩いたらどこかの町に着いてそこでバスが拾えたりしないか?「遠いよ〜。」もしくはこの場でヒッチハイクをして誰かの車に便乗できないか?えーちょっと気が引ける(意外にシャイ)。

えー、えー、マラウイってそんなん?えそんな高いん?あーもうびっくりです本当に、未だかつて空港から町までいくのに30ドルも支払った経験ございません私えぇ。オーストラリアでも20ドルでしたとも。

云々とドライバーに聞こえる声で、というかやや語りかける口調で独り言をぶつぶつと囁いていると、「じゃあ4000でレッツゴーしよう。」とドライバー。

これを果たしてぼったくりと呼ぶかどうかは人それぞれだが、タクシー関係者以外の人間も皆4500クワチャと言っていたので、それを信じ、半ば諦め、史上最高額、4000クワチャ(約2500円!)を支払ってタクシーに乗り込む。

さっき両替して手にした15000クワチャが、もう11000クワチャに。末恐ろしくて動悸さえ覚えそうだ。

とはいいつつも、諦めは心の養生、過ぎたことをグチグチ、クワチャクワチャ言っていても何も変わりやしないので、いかにも気の優しそうなドライバーとあれこれ喋りながらオールドタウンへと向かう。

しかしあれだ、緑ばかりだ見渡す限り。今は雨季か何かで?「へい。もろ雨季でございやす。あの左手に生い茂ってるのはあっしらの主食、トウモロコシでやす。」

本当に首都なのかここは?町の気配が一向にしないが、なんて思いながら流れる景色を見ること30分。「へい、こちらが、お客さんのお向かいにおなられたいと仰ったお宿でおやいます。」到着した模様。

左様か。ご苦労であった。では、いざ尋常に料金を受け取られよ。よ。よんせんクワチャ・・・・。

St. Peter's Guest Houseという、教会の運営する宿で、ここも割と町の中心のはずなのだが、確かに道や建物は見当たるが、およそ首都とは信じがたいほど緑に囲まれた場所だ。

一番安いドミトリーにチェックインするが、その部屋ですら1000クワチャ(約620円)もする。

荷物を置くなり早速町歩き。宿にキッチンがあったので食材でも探しに行こう。市場でもあれば助かるのだが、

ほほーう、市場ねえ。今あなた、市場でもとおっしゃいました?

マラウイなめたらあかんねん。

スーパーマーケット!!!!!緑に囲まれた中に突如アーバンな雰囲気漂う、いかにも首都的な場所が現れ、そこにずどんと構えるはスーパーマーケットそのお方。

発展途上国、という言い方はあまり好きではないが、そういう国を旅していて、嬉しい瞬間の一つに数え上げられるのがこの「スーパーマーケット徘徊作業」なのだ。心持ちはさながら冬物のコートないかななんてウィンドウショッピングを楽しむ女の子そのもの。歯磨き粉いいのないかななんて。

食材を求めつつその他の物品も眺めてゆく。が、徐々にさっきまでの浮かれた気持ちが消えてゆく。冬物のコートとか歯磨き粉とか言ってられない・・・

高い!どれもこれも、まるでアメリカ価格!!!(アメリカ行ったことない)

マラウイよ、一体どうしたというのだ、タクシー代に宿代だけでは事足りず、食料品までこんなに高いなんて。インターネットで事前に調べておいた値段と全てが違う。どうやらここ数年で大きく物価が上昇したらしい。どったの。イン・・・フレ?

結局一番安い米と一番安い野菜を買って帰り、手持ちの、コートジボワールで入手したごま油と醤油を使って質素なチャーハンを作りどうにか空腹をしのいだ。

囚人さんいらっしゃい


寝汗をかくほど暑かったガーナに比べ、標高が高いせいか随分と涼しい夜を過ごした。久々によく眠れ、久々に良い夢を見た。

普段なら、学校でアイスクリームを配る女が実は化け物で、それを退治するために指から光線を放とうとするも何もでず、挙句和田アキ子にあいつ何もんやねん。お前何やっとんねん。と叱られる夢や、デパートでほか弁を買おうか悩んでいると店員のおばちゃんに早よせい、と文句を言われる夢など、ろくでもないものばかりだったのに、今日は、昔のバイト先で適当に作ったサンドイッチがこれ美味いよと褒められるなんとも嬉しい夢だった。

夢は現実の延長だというが、ボクの夢は一体何をどう延長しているのでしょうか。

ともかく清清しい朝を迎え、ATMでお金を卸したり、インターネットで情報を仕入れたり、諸事を済ませるべくオールドタウンを奔走する。ツナギを着て。

ええ、ツナギを。はい、あのよく作業員なんかが好んで着ている紺色の。あ半袖タイプのやつです冬だし。

NAZENI???

想像してみてください。アフリカの、マラウイという国の町中を、ツナギを着て歩く不気味な極東人の姿を。

さっきから「あらやだあの子、出稼ぎかしら?」「おいあれ見ろよ!鉄工所勤務かよ。」といった笑い声が、聞こえてこなくもないような、視線を感じている。

実は、ガーナの市場にて発見し、突如「ツナギを着たい」衝動に駆られ、300円程度で購入していたのだ。ただ着たかったのだ。

ではここで、ツナギの特徴をいくつか箇条書きで説明しよう。

・つながっている。
・そのためトイレでウンコをする度半裸にならなければならない。
・意外と重い。
・洗うの大変。
・乾くの大変。
・つながっている。
・そのため腰に巻いたマネーベルトから物を出す時は下腹部に手を突っ込みもぞもぞしなければならない。
・ つながっている。
・そのためポケットに入れた品々の重みが全て肩にかかる。
・肩をこる。

いかがだろう。360度どこをどう見回しても旅をする際において利点が何一つみつからないこの奇跡の被服、ツナギ。今ならお値段300円。

買いましょう。むしろ喜んで買いましょう。

そういうわけで、買ってしまった以上着ないともったいないので、着ているのだ。周りの視線が気になるならよしゃいいのに、着ているのだ。

そんな中、翌日向かう予定のモンキーベイという場所へ向かうバスの時刻や値段を調べるべく、バスターミナルにやってきた。

バスのみならずミニバス、タクシーなどがひしめき合う中、チケットカウンターらしき場所を発見し、尋ねる。

あのう、明日ね、モンキーベイに行きたいんですけど、バスの値段っていくらぐらいですか?

カウンターに柵があって話しにくいななんて思っていると、ややあって中の人達から、

「へ?いやそれはオレ達分からないな。うん、えとね、オレ達今捕まってんのよね。うん、そう、逮捕、逮捕されちゃってるの。分かる?500クワチャ払えば釈放してもらえるんだけど、君あれかい払ってくれるのかい?」

一瞬思考がストップしてしまった。何で、どうして、チケットカウンターに身柄を拘束された連中がいるのだ?ちょっと君たちお門違いもいいとこだよ。ここはチケットカウンタ・・・

待てよ?「カウンター」をぐるりと周り正面を見てみる。

P O L I C E

ポリース?「おいおい、あんた何やってんだよ。チケットカウンターならあっちだ。あんな奴らに話しかけちゃ駄目だろう。いいか、絶対にお金を払ったりするんじゃないぞ。」

ツナギを着た男が囚人に向かって話しかけている様子を見ていたらしい紳士にそう説明された。

お門違いはボクでした。いんやーオラこっぱずかしいことしちまっただー

いやしかしあれは間違えるだろう!あんな、停車中のバスとバスの間に作られた掘っ立て小屋程度のオフィスと、チケットと代金が受け渡せる程度の大きさの穴が開いた柵を見せ付けられた日にゃあ、誰だってそれを「チケットカウンター」だと思っちゃうだろう!

それをこともあろうか簡易交番にしてさらにその小さな空間に逮捕者を詰め込んだりしてもう・・・

P O L I C E

あ、はい、これだけでっかくペイントされてりゃ誰も間違えない、そうですかそうですよねふふふ・・・。

まあ、マラウイの囚人と会話をし、彼らを釈放したくば500クワチャを支払ってやればOKという貴重な機会と情報を得ることができたと別の角度からとらえれば、これもまた良い経験となるだろう。

なるですか?

マラウイ湖の美しさ

翌朝、そんな紛らわしい交番のあるバスターミナルへ再び現れ、今度こそ、本当のバス会社のオフィスへ向かう。

「モンキーベイ?ならもう出るとこだから、そのまま乗り込みなさい。」

チケットカウンターがあるのにバス乗車時にチケットを購入するシステム。要領悪くないか?おかげで我先に乗り込もうとする客で一杯だ。おまけに大きな荷物もそのまま車内に持ち込ませている。

そして車内は既に、満席?

後から乗り込み席が無い連中は皆、通路に突っ立っている。座ろうにも席がないのでボクもまた突っ立っている。

のにも関わらず次から次に乗り込んでくる人々。ようやく入り口付近まで人が突っ立った頃出発。

うぉい!こちとら席に座っている連中と同じ分クワチャを支払ってるんだ!お客突っ立てっぱなしとはどういうことだ畜生!

と心の中で怒号をあげつつも、やっぱりここはアフリカだったので、大人しくジャミポッドを聞きはじめる。西アフリカから東アフリカに飛んだところで、アフリカはアフリカであり、アフリカでしかないのだ。

んママアフリカ!!!

開け放たれた窓から入ってくる風が涼しかったり、どれだけ走っても緑の濃い山々が美しかったりはするけれど、

そろそろ膝が悲鳴を上げそうだよ。

三時間近く立ちっぱなして膝小僧が笑い始めた頃、「ヘイボーイ、席空いたぞ今だ座んな」とオッチャンに言われようやく座ることができた。嬉しい。

普通に普通の現象が起こってくれることが、いかに嬉しいかを、ここアフリカでボクは数多く学んでいる気がする。日本人はきっとボクがこうして膝を笑わせながら突っ立っている間も、電車が数分遅れただけで駅員に文句を言ったり、ちょっとスープがぬるいだけで店員に文句を言ったりしているのだろう。

さて、席に着くことができ心の平穏を取り戻し、さらに二時間ほど走ると、目的地モンキーベイに到着した。

ベイは一体どこに?山と町しか見あたらない。「ハロー。宿をお探しで?」客引きがやってきた。

適当に歩いて決めようと思っていたが、「町中より、ビーチ沿いにあるVENICE BEACHのほうがいいよ。案内するから。」と勧められたので、とりあえず見てみようと素直に案内される。

町から20分近く、まともな道などない道を歩き、村落をこえた先にそのヴェニスビーチという宿はあった。

いかがなもんかとのぞいてみると、キャーーーーーー

湖キレイ!!!!!!!!

目の前に砂浜と湖が広がり、その向こうに山がそびえる素敵な物件。交渉の末800クワチャ(約430円)でドミトリーにチェックイン。宿自体も清潔で、センス良く仕上げられていてまさにビーチリゾート風ビーチリゾート。

そんな所にひょっこり現れたリゾート客ではない貧乏旅行者。

私は知っている。この宿の洒落たレストランバーで食事をすると、あっという間に懐に寒さを覚える羽目になることを・・・。

しばし湖を眺めながら休息し、再び町へと戻る。食料の調達に他ならない。

40分近くかかったのは気のせいだろうか。そして全く身に覚えのない道路を通って町に戻ってきたのも気のせい、

などではなく、もれなく迷ったのであった。普通の道ですら迷う人間に、道などない道を歩かせるのはよしてください。

スーパーへ行くも今日は土曜、平日より早めに閉店、何も買えず、結局唯一開いていたパン屋で食パンを一斤買って帰る。

これでしばらくもつだろう。

ところで宿はどこですか?またしても迷う。手には食パン。そうだ!これをちぎって少しづつまいておけば・・・

一度迷った経路を再び同じように迷うことができる!

意味がないのでやめておく。村人に尋ねつつ歩いてようやく帰り着いた頃にはじんわりと汗をかいていた。

ならば、泳がない手はないではないか。

水着がないのでパンツ一丁で湖にダイブ。エジプトのダハブ、紅海で泳いで以来だろうか。気持ちいい。ぽわぽわと浮かんで空を眺める。白い雲がもくもくと立ち込めている。

すると「お、おいちょっと!なんでそんな風に泳げるんだ!教えてくれよ!」と救命胴衣を着けて泳ぎの特訓をしているアフリカ人に話しかけられた。

お前アフリカ人だろ!!!しかも筋肉隆々の!!!!

いけない。泳げないアフリカ人がいたって何もおかしなことなどないのに、つい先入観で「アフリカ人は全員素潜りで魚をキャッチし、素足で木に登りココナッツの実を落とすもの」だとばかり思っていた。失敬。

「ジャパニーズはみんなKARATEマスターなんだろ?」と真顔で聞いてくるアフリカ人と同じじゃないか。

しばらくすると体が冷えたので部屋に戻り、ベッドで横になる。

気がつくと辺りはもう真っ暗だった。眠ってしまったらしい。食パンもいいけれど、ディナーぐらいもっとまともなものを食べたっていいじゃない、と三度町へと歩きだす。

「そっち違うよ」

宿を出て二分で道に迷っていたところを、さっき宿まで案内してくれた奴に見つけられ、ついでに町まで連れていってもらう。「宿は高いから安い食堂でご飯食べるとか?」

見事に見抜かれてしまった。「ワタシ節約シテイマス」とプリントされたTシャツ、ワタシ着ていました?

「安い所知ってるから案内するよ。その後別の店でドリンクでも飲めばいいじゃん?大丈夫、帰りも送ってくから心配ないよ。」

知らないうちにコイツと一緒に飯を食い、その後ドリンクを飲みに行く予定になっていた。これは、若干面倒臭いニオイがする。

食堂に着いて、湖で獲れた魚とライスを注文すると、タイガーという名のコイツももれなく、スィマと呼ばれるトウモロコシを練ったマラウイの主食と、ビーフを注文した。これはますます、ニオう。

いただきます。ンガ!!!実に美味い!!!味付けも、おそらくただスープキューブのようなものをぶちこんだだけなのだろうが、なんだかバーベキュー味の駄菓子みたいでボクの安いお口に合う!!

ぺろりとたいらげ、満腹感に浸っていると、「んじゃ、640クワチャ。」とタイガー。やっぱり・・・いや、こうなった以上、雰囲気的にボクのオゴリになるだろうなとは思っていたけれど、せめて、社交辞令でも、会社の飲み会の際の日本人のように、「いや部長、ボク払いますから!!」と支払う意思、つまりは誠意らしきものを見せてくれてもいいじゃない。

「640クワチャ。」って。そんなぶしつけに、さも当然のように言わなくたっていいじゃないタイガー。

人は見た目じゃないって人は言うけれど、人は大体見た目です。少なくともアフリカ人においては。

ちょっとB-BOYなファッションで、短パンを腰で履き、ピアスをあけているアフリカ人は大体最終的に金銭が絡んできます。それと、気配がするのだ。あ、こいつ、親切なだけじゃない。という気配がする人間は、大体その通り、親切をお金で売ろうとする連中だ。

アフリカを旅して三ヶ月余で気づいたことのひとつがこんなことって。悲しくないかい。

あまりこれ以上タイガーと行動を共にしたくなかったので、道覚えたから帰るよ。なんて言って立ち去る。

・・・・・。

もちろん口からでまかせだ。昼間でさえ迷いに迷ったこの道を、明かり一つない闇の中一人で帰れるわけがないじゃないか。

微かな記憶を頼りに突き進み、身に覚えのないぬかるみに足を滑らせ、身に覚えのない民家に迷い込み犬に吠え立てられ狂犬病を恐れ、その家の主人に途中まで一緒に歩いてもらい、都合一時間近くかかってどうにか宿に帰った頃には、タイガーという人物に関する不信感や何やらなどすっかり忘れ、ひたすら生きて帰れたことに感謝をし眠りについた。

たまには計画的に予定を立てる男


一転、昨夜のちょっとした一難が災いしたのか、今寝ている部屋の中に白い女の子が立っていて、ふとパソコンの画面を見ると、見たこともない、棺に納められた少女の写真が待受け画像に設定されており、シャットダウンしようとすると「あいちゃん・四歳」と表示されるという世にも不気味で恐ろしい悪夢をみて、さらに実際に体が硬直し、その後ぶるぶると震えて目が覚めた。

これは果たして、何だったのでしょう。

ともあれ、今日も湖は美しい。レストランで朝食セットを、といきたいところだが、それは叶わぬ夢なので、お湯だけもらい、持っていたインスタントコーヒーを注ぎ、昨日買った食パンに、コートジボワールで買ったチョコクリームを塗って朝食とする。

湖を眺めながらパソコンと向かいあっていると、ファミリーでやってきているアフリカ人の女の子がやってきた。「ねえそれなあに?音楽きけるやつー?ねえききたいレディガーガある?しんぐるれでぃーすある?」

ジャミポッドのイヤホンを差し出して、リクエスト曲を再生すると、にっこり笑って「っぱっぱっぱっぱっぱっぱかふぇーい」と歌い始めた。可愛らしい。さらに、「ねえそれなあに?えフォト?カメラとりたいねえかしてー」

デジカメをそっと手渡して、こうやって撮るんだよとみせてやると、がっつり笑い、カメラを持ってあちこちパシャパシャしながら走りだした。おい、お前落とすなよ・・・気が気でない。

今まで己の不注意で二度もカメラを故障させ、それによって旅行中にカメラを失うことがどれほど衝撃的であるかを知っているボクはもう。可愛さ余って憎さ百倍、必死で、お願いだからストラップを、ね?そうこのヒモこれ、ストラップを腕に通して持ってて!と懇願。

少女は無邪気に微笑む。

無邪気って、時に邪気を放つよね相手によっては。こいつカメラ落としたらタダじゃおかんぞ娘ぇ。

そんなハラハラする午前を過ごし、午後は港へと足を運ぶ。ここモンキーベイから週に一回フェリーが出ていて、リコマアイランドという、友達曰くマラウイのハイライト的な島に向かえるのだそうだ。

奇跡的に一度も迷わず町へ出ることができた。もう大丈夫だ。集中すればボクだって道の一つや二つ覚えられるのだ。

歩いていると、昨日のタイガーがやってきた。「ハイ。今夜さウチで食材とか買出しにいって一緒にメシ作らない?んで色々写真とか撮ったりしてさ、ほら、オレ達友達じゃん?でその後オレの作ったアクセサリーとか見てさ」

後半にやや怪しげな発言が。オレの作ったアクセサリー。とどのつまりそれを売りたいんだろうタイガーよ。念のため、それはあれかい?タイガーがボクを招待してくれるってことかい?と聞くと

「もちろん!食費はシェアしてさそんでさ云々・・・」結局ワシ金出すんかい。ううん、ありがたいけど、ちょっと頭痛いし、ほら雨の降る前って頭痛くなるじゃん?だから部屋で横になってるよ今夜は。とやんわりお断りすると、

「ノープロブレム!だったら料理作ってもってってあげるよ!500クワチャ渡してくれれば。」

だったら私、這ってでもレストランに来て普通にレストランで飯食います。その方が断然安い。やっぱりコイツは、このピアスをあけて腰でズボンを履いた野郎は信用ならねえ。

気をとりなおして港へ。スタッフに値段や日程を尋ねる。「一等は9700クワチャでえーと、次の便は金曜の朝だな。」

き、きゅ、9700クワチャー!?それって一体・・・約6000円!?恐ろしい・・・しかも次の金曜ってことは、今日は日曜だから、五日後!?

「あでも二等は2710クワチャだよ。いっつも満席で大変だから、一等のほうがいいよ。」

あそうなの!?それならもう喜んで多少大変な二等を選びますよ。しかし五日後・・・問題は五日後というところにあるのです。あと五日も、モンキーベイでぐだぐだなんてしていられない。

でもリコマアイランドへ行くにはこの船しかないし、友達曰くハイライトだし・・・

でもでもボクの旅もそんなに悠長にしていられなくなってきているし・・・

宿に「迷わず」帰って一人ぶつぶつとつぶやきながら今後の予定を必死に考える。やはり、五日間もここで費やすことはできぬ。背に腹は変えられぬ。

バイバイモンキーベイ!

そして戻ります来た道を

翌朝7時に目を覚まし、荷物をまとめて宿をチェックアウト、バス停に向かう。さあ、リロングウェへ。戻るんかい。戻るんです。一身上の都合により。

「バスもう出たよ。7時半に。」

うん大体こうなることは予想してたありがと。別の場所へ向かうバスを待っている青年ドグサンの隣に腰掛け、とりあえず待ってみる何かを。「何かしら乗り物がやってくると思う。ボクが向かう町の途中にゴロモチっていうところがあるから、そこまで一緒に行って、そしたらそこでサリマ行きのバスみつけて、サリマ着いたらリロングウェ行きのバスがまたみつかると思うから問題ないよ。」

なんだかやたらと面倒臭そうなルートだが、リロングウェへ直で向かうバスが発ってしまった今、それしか手がなさそうだ。

と待っていると、早速荷物ついでに人も積んじゃうトラックが現れた。げ!タイガーも一緒に積まれているではないか・・・。「ヨージャミラ!もう出ちゃうの?えリロングウェ行くの?だったらこのトラックのって途中でおりてそっからなんたらかんたら・・・」タイガーは、決して悪い奴ではない、悪人ではないのだけれど、若干、常に金の事を考えていそうなフシがあるので、このトラックに便乗するのはやめておく。

こないだのレストランでも、見ちゃったんだ。640クワチャっていってボクが渡したお金を店員に渡して、何故かそこからお釣りをもらってたのを・・・。本当は640もしなかったんだろう。

というわけで次のトラックを待つこと20分。今度はモンキーベイの南にあるマンゴチという町へ向かうトラックがやってきた。ドグサンと一緒のトラックでゴロモチまで行きたかったが、トラックの男曰く、ここでそのやって来るかどうかも分からないトラックを待つなら、今これに乗って分岐点まで行って、そこでゴロモチ行きの乗り物見つけるほうが早いそうだ。

つまり、モンキーベイ→分岐点→ゴロモチ→サリマ→リロングウェというルート。

んめ、面倒くさ!!!!!

早起きは三文の徳、と言った昔の人へ。あんた正解。

が、他に今日リロングウェへ戻る手立てはなさそうなので、この面倒臭さ極まりないルートを辿ることにする。

「分岐点まで、150クワチャね。あれ?あんた昨日会ったよね?ほら、ヴェニスビーチでパソコン叩いてた日本人だろ?」

それなら間違いなくボクだが、全く覚えていない。しかも言葉を交わしたらしい。誠に申し訳ないが、アフリカ人の顔を一人一人覚えるのは非常に困難なのだ。全部同じに見えるの時々。

それはいいとして、分岐点まで150!?ほんの10キロ弱の距離だろう!?「こんなもんだよ。いいかい、他の連中はもっと高い値段を言うかもしれないけど、オレはそうはしたくないから150って言ってあげてるんだ。」

いかにも「オレっていい人」口調だが、こいつもにおうのだ。タイガーと同種のにおい。

結局150支払って乗り込むと、案の定他の乗客達は、分岐点より更に向こうの向こう、マンゴチへ行くのにも関わらず120程度しか支払っていないではないか。

その後もその分岐点からゴロモチ、ゴロモチからサリマへ向かうミニバスも、それぞれ100づつ高い値段を言ってきたが、何も言い返さず現地人と同じ300クワチャを黙って手渡すとそれ以上言ってはこなかった。

しかしなんだ。マラウイ人、通称あったかハートな国らしいが、微妙に、ほんの微かにあったかくない連中が見え隠れしている。当たり前といえばそりゃ当たり前だが、バスの値段をふっかけてくるのは極悪セネガル以来しばらくなかったことなので、少しショックだ。

そんなこんなで、リロングウェの宿に再び舞い戻ってきたのは16時を回った頃だった。直行バスなら870クワチャで五時間足らずだった道のりを、合計1250クワチャも費やし、七時間以上かけて、雨漏りのするバスに乗ったせいでバックパックをびしょ濡れにして帰ってきた。早起きは三文のと・・・・もう済んだことだ。

朝から移動続きでろくなものを口にしていなかったので、米でも炊こうとキッチンへ向かうと、停電。

辺りはもう暗く、ほとんど何も見えない。コンロは電気式なので米なんて炊けやしない。諦めて、真っ暗闇の中シャワーを浴びる。もはや何も見えないので雰囲気で洗う。キレイになったかどうかすら不明である。

ようやく電気が戻ってきて、飯を作り食べ始めたころ、この間からずっと宿泊しているアメリカ在住ジンバブエ人の青年がいたので、あれやこれやと喋る。随分長いことアメリカはシカゴに住んでいるようで、アクセントは完全にアメリカ英語だが、血はアフリカン。

海外の物事に目を向けようとしない無知なアメリカ主義者がいかに多く、そういった人に貧富の差やアフリカのことをいくら説明しても駄目で、ただただ時間の無駄だと教えてくれた。

最終的に話題は先進国の肥満問題にまで達し、「太った先進国の観光客をアフリカで見かけると、関係ないのにアフリカの人々に申し訳なくなるよね。」と結論づいた。

嫁さんが太っているのはアフリカでは家が富んでいる証だとかで良しとされるらしいが、それと太った観光客とは別だと、思う。太った観光客は、貧しい生活を強いられているアフリカの人々からすると、ただただ金と物の溢れた国からやってきた人、としか映らない気がするのだ。

などとデブ批判をしているくせに、旅を始める前の己の腹の肉のズボンにのっかり具合がいかに無様だったかなんて棚に上げてしまっている自分。

失礼を承知で言わせてもらうが、臭いよ

フェリーでリコマアイランドへ向かうのを断念した今、向かう先はムズズ!!!という町。そういえばガーナには「ココムレムレ」という、お前それはパンツか?パンツの内部がムレムレだとそう伝えたいのか!?と問いただしたくなるような町があったが、ムズズ。これまた随分どこかがむず痒くなりそうな名前だ。

失敗から学ぶ事を知っている賢い生き物私ジャミラ。事前にしっかりバスの出発時刻を調べておいたので、今回は無事直行バスに乗ることができ、さらに席も確保できた。

「ほんの」二時間待ちでバスは満席になり出発。二時間なんてお茶漬け再々である。オレをギャフンと言わせたきゃそうだな、30時間は待たせるこったな。二度とゴメンだからね・・・。

出発して五分で停車して、ガソリンスタンドで給油するのももはや恒例行事。彼らに「乗客を乗せる前にメンテナンスする」ことを期待するなんていうほうがむしろ愚かなのだ。

順調に走り出したバスに揺られ、相変わらず緑の濃い風景を眺め、途中焼きもろこしを窓から買ってかじったり、うたた寝したりしていると、ニオう。姉さんにおいます。

姉さん・・・ちょ、ちょっとそこは触れないで・・・

隣の姉さんノースリーブ。

姉さん・・・あっはー・・・だからそこは・・・やめて・・・

隣の姉さんの脇汗がボクの肩に直撃。臭いよ!!!!

ここで改めて言うのも気が引けるし、全員が全員ではないのだが、あえて批判を覚悟で言わせていただこう。

アフリカ人の体臭きつい。

脇の辺りのスメルが特に。これはほぼどの国の人々にも該当していたことだし、いちいちそんなことで驚いたりしなくなっていたのだが、マラウイにきて、非常に、申し訳ないが感じてしまうことがもう一つある。

マラウイ人体臭とおまけに口臭もきつい。

もちろん皆が皆ではないことを付け加えておくが、その、出会う頻度的に、今まで訪れたアフリカ諸国の中で群を抜いて高いのだ。

なのに皆優しくて親切だったりするから余計つらい。

あったかハートなマラウイ人に、どうして「あんた口臭いよ」なんて言えよう。誰がそんな非情極まりないことを言えよう。ぐっとこらえていればいいだけじゃないかボクが。

あれこれ思案を巡らせすぎる日本人なボクは、ガムいる?と手渡すことすら、「何よそれあんた遠まわしにお前口臭いからガム噛んでろって言いたいわけー?」と思われてはいけない、と考えてできず、結局自分のお口だけスッキリさせてしまうのだ。

そんな風に密かにマラウイ人の臭さ指摘をしていたのが祟ったのか、バスのタイヤがパンクしてしまった。

タイヤ交換のために40分ほど小さな町で立ち往生。民家でトイレを借りてウンコをする際、やっぱツナギは大変ダナっ。とその不便さを実感したりしていると、無事交換が済んで、もう一息走る。

前方に割と大きな町が見えた。どうやらムズズに到着らしい。時刻は既に17時半。バスを降りるなりタクシーの運転手達がやってきたが、宿までなら歩いていけるはずだったので、道だけ尋ねて歩きだす。金にならない相手なのに親切に道を教えてくれたタクシードライバーのおっちゃんよありがとう。

ムズズズーという、さらにむず痒さを増してそうな名前の宿へと向かう。町の中心部を離れ、未舗装の道を歩き、民家が建ち並ぶ静かな区域へさしかかると突如その宿は現れた。そしてその異様な光景に驚愕した。

欧米人だらけじゃん!!

ムズズに滞在している欧米人客全てが集結されましたと言わんばかりにうじゃうじゃと欧米人がたむろしている。なるほどオーナーもイギリス人らしく、宿の雰囲気は実に、欧米チックではあるが統一感があって良い。

もちろんこういった場所でディナーを注文するのは自殺行為であるからして、荷物を置くなり町へと戻り、安食堂を探す。少し歩くとすぐに見つかり、ライス&チキンを注文。

あっという間に出てくるのも安食堂の良いところだ。チキンのトマト煮がこれまたこの間モンキーベイで食べた魚と同じようなバーベキュー味の駄菓子みたいで美味い。皆同じ調味料を使っているらしい。

ものの五分でたいらげ、宿に帰って震えながら水シャワーを浴びると本日の業務を全て終了してしまった。ヒマなのである。が、宿のレストランでは皆ディナーを食べながらわいのわいのと盛り上がっているし、そういう場にヘーイと自然に紛れ込むことができない性質なので、ならもう、所在がないなら、

寝てしまえ。

今日の小学生でもまだまだ起きていそうな、驚異の20時半就寝。

史上最も静かで孤独な大晦日

宿の雰囲気はいいのだが、どうも欧米人ツーリストがやたらに多い場所が苦手なボクは、翌日には次ぎなる目的地ンカタベイに向かおうとしていたのだが、オーナーのおっちゃんに、「ジャミ、明日ンカタベイに行くってか?泊まるあてはあるのか?明日は大晦日だから、きっとどこの宿も一杯だと思うぞ。見つかったとしても、高い部屋しかないだろう。よっぽどパーティーに行きたいとかじゃないなら、ここに泊まっといたほうが無難だと思うが」

と言われたため、やむなくここムズズにもう一泊することになった。別に年越しにパーティーでヒューヒュー騒ぐことなんて求めていないし、ムズズでムズムズ年越しもいいじゃないか。

12時間近く寝たらしい。大晦日の朝、8時に目を覚ますと、昨夜のうじゃうじゃが嘘のように見事に他の欧米人達は今朝早くにンカタベイに向かったらしい。

パーティピーポーめ。アフリカ人は木に登り、日本人は空手をマスターしているというイメージがあるなら、欧米人はやたらパーティーパーティーなイメージだ。

結構。むしろムズズに残って正解だった。ンカタベイに無理して行って、宿探しに苦労して年越しパーティーで踊るのもそれはそれでいいかもしれないが、誰もいなくなったこの宿でのんびりと静かに年越しも素敵ではないか。

二十歳そこそこの時分は、やれクラブだやれ六本木だオールだと練り歩いて楽しんでいたのに、今や見る影もないほど落ち着いてしまっている四半世紀の自分。ギリシャ人のおっちゃんアゲロスに「Stay Young。いいかジャミ。年はとっても心は若くあれよ。」と言われたそばからこの年のとりよう。

不意に静かに過ごす時間を得たので、世界地図を広げ今後のルートやこれまで行った国々などに思いを馳せ、独り言をにやにや笑いながらつぶやく。

町へ出てンカタベイ行きのバスを調べ、新たな安食堂を見つけ昨夜と同じメニュー、チキン&ライスを注文。

すると驚いた。驚かずにいられない。

チキン&ライスにフライドポテトとサラダをつけて350クワチャ(約200円)ね。と言ってもってきてくれた。ここまでは普通に注文通りだから何の変哲もないのだが、それにスープと、食後のバナナをサービスしてくれたのだ。

更に「あらごめんなさい!塩がなかったわね!はいどうぞ」何という気のきいた娘だよー。

マラウイ人のあったかハートっぷりを直球で体感した大晦日の正午。口臭いとかほざいてごめんなさい!

午後はインターネットへ行き家族に電話をかける。久々愛する甥っ子の声を聞くも回線が弱く何を言っているのか意味不明なまま切れ、続けてかけた友人とは普通に喋れたがお互い独りで年を越す寂しい男同士だったので、せいぜい楽しみなこの野郎と罵りあって切った。

宿に帰ってもひたすらパソコンを叩き続け、今まさに2010年を迎えようとしているこの時、来年まであと45分という時刻になってもまだパソコンを叩いている寂しい男ジャミラ。

こんなに孤独な年越しは生まれて初めてですけど、年越しなんていったって結局はただ明日がくるだけだろ。騒ぐことないじゃないか。

と小さく強がって2009年を終えましょう。今年もよく旅した。来年もまだまだ旅は続く・・・。

餅もおせちもかくし芸も無い元旦。

カウントダウンとか、あなたはやったのですか。みんなで10秒前から数えたりして、2010年がやってきた瞬間に「ハッピーニューイヤーあけましておめでとー!!!ヒュー!!!」とか騒いだわけですか。

そうですか。

聞きたいですか?私が、2009年と2010年の境目、その瞬間に何をしていたかを。ではお教えいたしましょう。

誰もいない宿で独りバナナを食べていました。

そして歯を磨いてさっさと寝ました。

今かわいそうー、と哀れんだ表情でこれを読んでいるあなた。あなただって次の年越しはきっと独りバナナ片手に迎えているはず・・・。そうしろ・・・そうなれ・・・

さて、元旦。すっきりと7時前には目を覚まし、さっさと荷物をまとめバス停へ。ここから二時間ほど走った先にあるンカタベイへと向かう。

ミニバスに乗り込むなり次から次に乗客が現れて、ほんの30分待っただけで出発できた。なんと楽なのだろう!西アフリカなら5時間待ちだって普通なのに。

途中ポリスチェックのある所で、急に乗客を五人ほどおろし、裏の林道を歩かせ、ポリスチェックの終わった先で再び乗せるという催しごとがあった。一応定員が決められたりしているらしい。マラウイ。しかし文句一つ言わず林道を歩く乗客。日本ではありえないことだ。

10時過ぎにンカタベイに到着するなり、客引きがやってきた。「Mayoka Villageです。私の車で無料でお連れしますよ。」と言われたので連れられてみる。

マヨカビレッジもどこかで「良い」と聞いていた宿だったので、きっと悪くはないだろう。町から少し離れた場所へ。ほほう。これがマヨカビレッジ。

ゲっ!!!!!!!

またです。またうじゃうじゃいます。

O BEY JING

欧米人。

一気に萎えてしまった。が、もう町から離れてしまったため、他の宿を探しに戻るのも面倒なのでチェックイン。バーでビールを飲み盛り上がる彼らを尻目に、荷物を置いて町へと歩く。

腹ごしらえをすべく、ローカルのレストランへ足を運ぶ。フィッシュ&ライスはございますか?「へい、あるよ。300クワチャ(約190円)」ではそれをひとつと、ファンタを。

湖で獲れたらしい魚がまるまる一匹どかんとやってきた。揚げてあるので骨までせんべいよろしくばりばり頂けちゃう。美味い。

R&Bやヒップホップ音楽のDVDが流されている。アフリカの食堂でよくみかける光景だ。若者は皆アメリカの黒人音楽が好きらしい。かくいう私も割りとよく聞くので、一緒になってTVに見入る。

空腹を満たし、宿に歩いて戻るとそれだけで汗をかいてしまった。アップダウンの激しい道なのだ。では、泳ぎましょう。

パンツ一丁で湖へ。モンキーベイよりも目の前に広がる湖の規模がはるかに大きい。まるで海。きもちひ〜などとつぶやきながら、泳いだり浮かんだりして涼む。

岩場で休んでいると、足元を鮮やかな水色の魚が横切った。こんなトロピカルな野郎が、湖にもいるのか!すげえなおいマラウイ!

遊泳タイムを終え、部屋に戻る。

・・・・。

あのう・・・

ちょっと一言いいですか。

暇!!!!

やはりこういうビーチリゾートの類というのは、一人でやってくるものではないのだと改めて痛感させられた。リコマアイランドに行かなくて良かったかもしれない。退屈に耐え切れず果てていたやもしれぬ。

ンカタベイがいかなるものか、大体みてとれた。よし、もう、明日発とうか・・・。

などと考えていると、同じドミトリーの部屋に、アジア人が現れた。お互いそれに気づき、ほぼ同時に「どちらからですか?」と英語で尋ね、日本人ですと答える。日本人か!!

聞くとタンザニアでJICAの隊員をやっている方だそうで、休暇でこっちにやってきたという。丁度ボクはこの後タンザニアへ向かうので、あれこれ情報を教えてもらう。すると

「だったらここからフェリーでムバンバベイに行けばいいじゃないですか。対岸のタンザニアですよ。」

なんですと!?それは何とも興味深い情報!てっきり陸路でしかタンザニアへは行けないと思っていたので、さらにフェリーに乗りたかったのに断念していた矢先だったので、これぞまさに吉報。

早速港へ行き尋ねると、明日の深夜船はやってくるらしい。タイミングも完璧じゃないか。いよいよ風向きが俺向きになってきたぜ!

満月が柔らかく夜を照らす中、歩いて宿に帰っていると、溢れかえらんばかりの蛍が茂みの中で光を放っているのが目に飛び込んできた。こんなに大量の蛍を見たのは随分久しぶりだったので、これはますます幸先いい感じだぜ!と心躍る。湖に映った満月の光も幻想的だし、餅も数の子もないけれど、なかなか素敵な元旦を過ごせました。

風向き全然俺向きじゃなかった


初夢。親友とナイフでズタズタ突き合った挙句、「痛いから素手にしようぜ・・・」とナイフを捨てるが、「いーたたたたたた!」素手すら使わず噛み付き合って終了、ハードボイルドの戦いから小学生のケンカに一転するという内容であった。富士も鷹も茄子も現れやしなかったが、いいのかな。

船の値段など詳細を調べるべく朝から町へ。再び港にいた人間に尋ねると、「おんやー、船は今日の夜中くっけどよ、ムバンバベイにはいがねえよ?」

な、なんですとぅ!?するとやはり、陸路しかないということか・・・・。そうか、じゃあ、大人しくバスで向かいます。ズィコモ(ありがとう)。風向き変わった・・・。

道端で朝食代わりに10クワチャ(6円)の揚げパンと、謎の、米に小麦粉やスパイスを付けて揚げた犬のウンコみたいな形をしたもの(5クワチャ。3円)を買って帰る。 揚げパンは普通に揚げパンなのだが、犬のウンコのほうは、形こそ滑稽なれどスパイスなどが美味しそうにみえるのだが、食べてみるとほとんど味がしない。ご飯の素朴な味のみだ。スパイスもっと効かせてヨ。

やはり歩いて宿まで帰るとしっかり汗をかいてしまったので、湖へ。シュノーケルを借りて一人潜る。

あの・・・

今日も一言いいですか・・・。

暇。

野生のヒトなのか、利口なサルなのか判別しがたい


一人ンカタベイでこれ以上リゾート気分を味わうのに息苦しさを覚えた私は、翌朝早々にチェックアウトをし、ムズズの町へとミニバスで戻る。

一時間半ほどでムズズのバスターミナルに到着するなりそのまま、北方のカロンガという町へ向かうミニバスへ乗り換える。

これまたタイミング良く出発するところだったので、待ち時間無しなのは嬉しいのだが、わずかに空いたスペースに腰をおろさなければならなかったため、左でん部が椅子に乗せられず空気椅子状態、簡潔に言うなら半ケツ状態なのである。

そのような状態で四時間近く座り続けるとどうなるか。ご存知ですか。お教えしましょう。

お尻が馬鹿になります。

おまけにもれなく隣のマラウイ人女性の脇から強烈な離れ業というか、飛び道具というか、鼻孔への止まない攻撃を食らい続けるとどうなるか。ご存知ですか。お教えしましょう。

お鼻がもげます。

せっかく壮大なマラウイ湖のすぐ側を走っていたのに、その光景を楽しむ余裕すら持てぬままカロンガへと到着。山間部を走行中、公道に躍り出た山猿の群れを撮影することすらままならなかった。

このまま国境行きのシェアタクシーをひろって次なる国タンザニアへと向かっても良かったのだが、そう急ぐこともあるまいと、この町で一泊していくことに。

バスターミナルから適当に歩き、二、三軒みた宿の中で一番安かったCHUFO GUEST HOUSEというところへチェックインし、町を散策してみる。

が、特に何も見所がないのが、歩いて二、三分で窺えた。とりあえず湖の方へと向かう。

日差しが強く汗がしたたり落ちるなか歩くこと二十分。ビーチへとたどり着いた。すると目に飛び込んできた黒い、群れ?山猿が避暑地湖へと降りてきたのか?日本猿の温泉よろしく?

あれは一体・・・・

生まれたままの姿で水辺に戯れる地元民の集い、言うなればフルチンのヒトの群れだ!

湖を撮影しようと構えていたカメラを見つけるなり、オレがオレがとその存在をアピールし撮られたがる野生のヒトビト。

バック転を三回連続でにこにこ笑いながらやってのけたり、思い切りジャンプして180度に開脚した状態で着地してみせたり、普通なら「オレって凄いんだぜ」と自慢げにやってもいいような技を、お米を研ぐ、だとか、歯を磨く、だとかいう日常行為の一環かのようにこなす彼ら。

撮った写真を見せてあげるなり大声を上げて喜び、もっともっとと更に色々な技を披露してくる。

「まいこーじゃくそん!」

と言いまさにマイケルジャクソンのような動きを見せる推定年齢7歳のヒト。こんなところにまでマイケルジャクソンの存在が知れ渡っていることも驚きだが、こんな小さな子供がこんな動きをできることのほうがもっと驚きだ。

今度は動画を撮ってそれをみせる。「ワーーーー!!!ピギャーーーーー!」という雄叫びに近い歓声をあげてますます喜ぶフルチンのヒトの群れ。

三十分近く彼らのリクエストに応えるべく撮影すると、遂にメモリーカードの容量が一杯になり、終了。

おかげでボクのメモリーの六割近くが、フルチン画像と相成りました。カメラにたかってきたのがオスばかりで悲しい。

水の有難みを知り、いたずらウォッチングを仕掛けられる

宿へ帰り、洗濯でもしようとバケツを借りるが、水が出ない。おまけに停電中。現代社会に生きる人間としての生活を営む上で最も重要で必要不可欠な二大要素が見事に欠けている。

他の宿を当たってみるも、どこも同じ状況。手を洗いたいのにそれすら叶わないので、諦め、夕方近くまでぶらぶらと歩きまわる。

陽が暮れた頃ふと見渡すと、電気が!ひとつ復活、あとは水さえ出れば・・・そろそろシャワーを浴びたい。日中歩きまわり汗をかき、砂浜で座り込んだりしたため体のいたるところに砂がついていてとてもじゃないがこのままベッドへは向かえないのだ。さほど野生人でない私は。

「うん、ノーウォーターよ。」

平然とそう応える宿の姉ちゃん。今までなら貯水タンクからバケツ一杯の水を用意してくれたりしていたのだが、今回は、うん、ノーウォーター。

水がないという辛さを改めて骨身に染みて感じる。水、水、水が欲しい・・・みず・・・うみ?

湖いきましょ

貴重品の類をバックパックに詰め込みカギをかけ、小銭とタオル、小型ライトのみを携帯し、昼間フルチン科のヒトを発見したビーチへと向かう。

人々が町へと歩を進めるなか、一人その流れに逆らい真剣な眼差しで湖へと歩くその姿は、かなり不審であったに違いないが、かまやしない、ボクの右脳だか左脳だか大脳だか小脳だか加納が指示していたのは「このべとついた状況を打破すること」それだけだった。

ビーチへ辿り着く頃にはもう辺りは真っ暗で、もはやフルチン科の輩はおろか、人っ子一人いない状態であったが、それすら構わず、Tシャツと短パンを脱ぎ捨て、パンツだけは履いたままで湖へと飛び込む。理性がわずかに働いたようだ。「フルチンはアカン」

き、気持ちひい・・・・・・

頭まで潜り、入浴時と同じように全身を素手でごしごしする。こびりついていた砂や汗が流れてゆく。

十分ほどで陸へ上がり、清清しい気持ちで町へと帰る。しばらくこの冷涼感を味わっていたかったので、あまりしっかりタオルで拭かずに、やや濡れ男で歩くその姿は、柳の木の下にたむろする地縛霊に見えなくもなかったが、かまやしない、此度ボクの髄脳だか叶だかが指示していたのは「食物を口にし、空腹を満たすこと」それだけだった。

町中の食堂へ入り、おなじみライス&チキンを注文。よっこらせ、と椅子に座る。と、

視界に入っていた「レストラン内」の景色が急に「レストランの天井」に変わった。

どんがらがっしゃーん!という効果音とともに。

突然の出来事に気が動転し、数秒間、一体この身に何が起こったのか理解できなかった。

そして次に視界に入ってきた「椅子」を見てようやく理解した。

つまりこういうことらしい。よっこらせ、と座った椅子の足が一本欠けているのに気づかず全体重をかけたため、吉本新喜劇の役者に抜擢されそうな勢いでずっこけた。

笑って誤魔化すしかないこの状況。ちょっとオバチャンこれしかけたやろー!と言うと

「オゥソーリー!ソーリー!そんな、あれれー?おかしいわねごめんなさい知らなかったの!」

申し訳なさを感じさせつつも笑わずにいられませんワタシ、という表情でそう答えたオバチャン。すぐにまともな椅子をもってきてくれはしたが、どうも腑に落ちない。オバチャンの「意図」を疑わずにはいられない。

だって。普通気づくだろう!自分の店の椅子の足が一本欠けてたら!閉店後もしくは開店前の掃除途中に「あら?これ折れてる」気づくだろう!

友達がいれば美味しいことこの上ないコケっぷりだったのだが、残念ながら見ていたのはオバチャンだけだったため、大いにコケ損である。

何はともあれ、飯だ。落ち着いた頃やってきたライス&チキンをいただく。うまい。あ、オバチャンちょっと塩くれるー?

「はいどうぞ。」

チキンにちょこっと塩をふりかけて、と。

きつね色に揚がったフライドチキンが白色に変わった。

おや?おかしいな。なんで色が変わっちゃったんだろう?

チキンを一口ぱくり。

しょっぱ!!!!!!!!!!

塩だ。紛れも無く、塩だ。それも濃度のかなり高い。一日に摂取すべき塩分の量をはるかに超え、あわや致死量という勢いの。

フライドチキンの色が変わったのではなく、ちょこっと「ふりかけた」つもりの塩が、フタがとれて「ぶちまけられ」てしまったために塩まみれになり、チキンが見えなくなっていたのだ。

偶然は、二度起こるともはや必然となりうる。

この時脳裏をよぎったのは、90年代ニッポンのお茶の間で大人気だったテレビ番組「いたずらウォッチング」。

一般人にいたずらを仕掛け、それを隠しカメラでとらえ、天然のリアクションを観察し笑いものにするという番組。10年余の月日を経てマラウイにやってきたのだきっと!そしてボクは見事にそのカモにされたのだ!悔しい!

隠しカメラの居所を暴いてやる!とキョロキョロ店内を見回す。

見つからない。CCD?まさかの高性能CCDがティッシュケースの中に!?

ティッシュすら見当たらない。そもそも、冷静になって考えるとそんな高価なカメラがマラウイに存在し、こんな下世話な番組のために使用されるはずがないではないか。

しかも今度はオバチャンすら見ていなかった。塩ぶちまけ損だよ・・・。

笑って、オバチャンこれフタゆるくしとったやろー!もう塩っ辛くてかなわんわあ〜

と言及することすらできない。静かに、フライドチキンにこびりついた塩をフォークで落とし、水をかけて流し、それでもまだまだ濃度の高いそれをどうにかたいらげ、ただ静かに店をあとにする。

ボク、今日は何のためにカロンガの町で一泊しているんだっけ。

そうだ、フルチンに詰め寄られ、水がないから湖で体を洗い、レストランでずっこけて塩をぶちまけるためだった。いっけない忘れるとこだったよ。アハハっ

泣かせてよ・・・・・

そうして幕を閉じるマラウイの旅


電気が復活したところで扇風機などない部屋なので、暑さにもがき、眠れない夜を過ごす。おかげで6時前には起床。さっさとズラかろうぜ・・・荷物をまとめバスターミナルへ。

シェアタクシーに乗り込みいざタンザニアとの国境へ向かう。散々コケにされた翌朝、タクシーがスムーズに出発してくれたことがせめてもの救いだ。

二時間足らずで到、着?

どこが国境で、どこにイミグレーションが?と首をかしげずにいられないような、さびれた村の中心でおろされる。

「あっちだよ」と指をさされた方向、商店と商店の間の小道を歩いてゆくと、突如現れた国境及びイミグレーション。何故こんな入り組んだ土地に・・・。

ともあれ、これでマラウイはおしまい、そして新たな国タンザニアが始まるのだ。

いたずらウォッチングのクルーが潜んでいないことを切に祈りつつ出国!


タンザニア日記


マラウイ(2009年12月24日〜2010年1月4日)